トルクメニスタン | カオスの坩堝 https://anqou.net/poc Chaos is not kaos. Sun, 25 Mar 2018 17:01:01 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.1.1 https://anqou.net/poc/wp-content/uploads/2018/02/9dc10fe231765649c0d3216056190a75-100x100.png トルクメニスタン | カオスの坩堝 https://anqou.net/poc 32 32 ノゾミ https://anqou.net/poc/2018/03/26/1393/ https://anqou.net/poc/2018/03/26/1393/#comments Sun, 25 Mar 2018 16:55:31 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1393 私の視界に最初に映ったのは、真っ白な天井だった。

「―うん。今度こそ、成功だ。」

そんな声を聞きながら、私は上体をゆっくりと起こし、辺りを見回した。

そこは、真っ白な部屋だった。天井も白、壁も真っ白。私の右側には小さな窓があり、そこに取り付けられたカーテンもやはり白かった。左を向くと、白衣を着た男が一人、白いコンピューターの前に座っていた。年の頃三十前後と思われるその男は、白衣に分厚い眼鏡も相まって見るからに「研究者」といった風貌だった。黒い短髪が、部屋との対比で妙にはっきりと見える。先ほどの声は、どうやらこの男が発したもののようだった。男は立ち上がってワタシのほうに歩み寄りながら、言葉をつづけた。

「はじめまして。僕の名前はユウヒ。君の製造者だ。」

「―製造者」

「君の名前は、ノゾミ。」

「―ノゾミ」

「君は、僕の身の回りの世話をするために作られた、アンドロイドなんだ」

「―アンド、ロイド」

そう言われても、目を醒ましたばかりの私には、それがどういうことなのかよくわからなかった。ただ、ワタシの視線の向こう側にいる彼とワタシの間には、何か大きな違いがあるのだという、それだけは妙にはっきりと分かった。

「―わかり、ました。私は、人間ではない」

「そう、君は、アンドロイド。」

「あなたの、世話をする」

「そう、君の生きる理由は―」

彼はそこで少し言葉を切って、少し遠くを見ながら言った。

「僕を、幸せにすることだ。」

 

ユウヒと名乗った男は、私にゴシック調のエプロンドレスを与えた。「かわいいだろ」とどこか自慢げに渡してきたあたりを見ると、どうやら彼の趣味らしい。あまりいい趣味とは言えないな、と思った。彼はそれを着た私に炊事や洗濯、掃除などの仕事を申し付けた。仕事はどれもさほど苦にはならなかった。ユウヒの家はそれほど広くなかったし、料理や洗濯も一人分ならばたいした量にはならない。時間を持て余した私は、裁縫をしながらユウヒと話すことで時間をつぶした。

「数年前まではこの辺にも人間がいっぱいいたんだけどね」

ユウヒは本の頁を繰りながら言った。

「みんな死んでしまった―錆の病で」

「錆の病、ですか」

「そう、錆の病―茶色い斑のあざが体中に表れて、皮膚がはがれ、最後は死に至る病。原因不明、感染源も不明、どこからともなく突如として現れた病。みんな、それに罹って死んでしまったけど―僕だけが、生き残った」

独り言のようにそう語るユウヒは、どこか寂しそうだった。

「寂しいのですか」

そう尋ねると、ユウヒは首を横に振った。

「まさか。むしろせいせいしたくらいさ。どうも僕は人間ってやつと折り合いが悪かったからね。気ままな一人暮らしができるようになって、万々歳さ」

ユウヒはやっぱりどこか寂しそうだったけれど、私はそれ以上聞かなかった。

 

ユウヒはどちらかと言えば寡黙な人で、あまり表情を動かさなかった。しかし、よく見ると食事がおいしかった時や読書中に好みのフレーズを見つけたときに時折ピクリと眉が動く。私はそのしぐさが人間臭くて好きだった。あまり自分から話を始めるということはなく、私の言葉にユウヒが答える形で会話が始まることがほとんどだったし、終わるときも私の言葉で終わりがちだった。失礼な話だが、お世辞にも話が上手いタイプとは言えなかった。彼が自分から始めた話は、先ほどの「錆の病」のようにどうも膨らまなかったし、私の話を広げる応答をしてくれることもあまりなかった。他の人間と深いかかわりを持たなかった、というのは納得できる話だ。この人間との相性の悪さのおかげで病に罹らなかったのかな、なんてことをふと思った。

 

私とユウヒの生活は、あまり変化のないものだった。毎日ルーティーンのように私は朝食を作り、洗濯をし、掃除をして、昼食を作り、もう少し掃除をして、裁縫をしてから夕食を作ったし、ユウヒはその間ずっと本を読んでいた。彼が読んでいる本の内容は日によってばらばらで、薄っぺらいミステリー小説のこともあれば、何か難しい論文を読んでいることもあった。彼はどうやら内容を吸収することよりも活字を目で追うことに満足しているようだった。

彼の読む書物は、私たちの家の中では一番大きな部屋である書庫に保管されていた。中には図書館から拝借してきたものもあるようで、カバーに透明なフィルムやラベルが貼り付けられていた。「図書館に眠ったまま誰も読まないよりは、僕が読んであげた方がいいだろ」というのが彼の言い分はもっともなもののようにも思われたし、何かおかしいような気もした。

書庫以外にも家にはキッチン、ダイニングルーム、居間、ユウヒの部屋、私の部屋、それから計器がたくさん置いてある研究室のような部屋があった。ほとんどすべての家事を私に任せたユウヒだったが、研究室には彼なりのこだわりがあるようで、私の開発という役目を終えた今でも毎日自らの手で掃除をしていた。それからこの家には、もう一つ部屋があった。研究室の床下に設けられた地下室だ。ユウヒは私に、この部屋には立ち入らないよう固く言いつけた。何があるのか気にならないではなかったが、私の使命は「ユウヒを幸せにすること」なので、私は地下室について何も言及しなかった。ユウヒも地下室の中身については一切触れようとしなかった。

そうやって、アンドロイドと人間は、小さな隠し事とささやかなルーティーンを蜜に溶かしたように甘やかに続けていた。

しかし、やはりその日は来てしまった。

「―ああ、だめだこりゃ」

自分の左腕にできた茶色いあざを指先でつつきながら、ユウヒは不自然なほど自然な調子でそう言った。あざはつついた先から、古くなったかさぶたのように腕から剥がれ落ちた。

「これが―」

「そう、錆の病。いずれ全人類を滅ぼすであろう病。」

嘆く様子も悲しむ様子もなく、淡々とユウヒは言った。

「いつか来るだろうとは思ってたけどね。思ってたよりも早かったな」

「痛くは、ないのですか」

「うーん、痛みはないな。皮膚がはがれてるのにね」

「―では、辛くは、ないのですか」

「いや、全然。むしろ憑き物が落ちたような気分さ」

あまり笑えないジョークだったが、私は雑な笑顔を浮かべた。

「錆の病は、最初にあざが出てから三週間ほどで死に至る。その日が来たら、僕を埋葬するのは―ノゾミ、君の役目だよ。」

「―はい、わかりました。」

終始淡々とした調子のユウヒに、私も淡々と答えた。

 

錆の病。その進行はユウヒが予想していたよりもずっと早く、最初にあざを見つけてから五日後にはユウヒは自分の足で立つことができなくなっていた。茶色い土くれのようになった肌は本人からすればやはりショッキングなもののようで、彼は食後に胃の中のものを何度か吐き戻した。

「死ぬならもっと楽に死にたかったんだけどね…痛みがない分だけましと思った方がいいのかな」

青ざめた顔でいうユウヒは、どう見たって幸せそうには見えなかった。

彼は自分の部屋のベッドの上で一日の大半を過ごすようになった。書物を読んで一日を終える生活は相変わらずだったが、時々ぼうっと物思いにふけるような様子を見せるようになった。そんなとき彼は、どこかうつろな目で少し上を見上げる―私が目覚めたときに、少しそうしていたように。何を思っているのかは、あまり気にしないようにした。聞いたら答えてくれるかもしれないが、聞かない方が彼は幸せでいられるような気がしたからだ。

彼が動けなくなったため、それまで彼がやっていた研究室の掃除も私が担当するようになった。研究室の中は所狭しと物が置かれており、何に使うのかよくわからない計器が八方から私を見つめているような気がした。ユウヒの意思を汲んであまりものを動かさないように掃除をしていたが、それではあまりきれいにならなさそうだった。私は研究室の掃除を終えるたびに、部屋の角にたまった埃に後ろ髪を引かれる様な思いがするのだった。

錆の病を発症して、八日が経った。ユウヒの体は半分ほどがあざで覆われていて、首元にまで進行していた。食も細くなり、痩せていくのが目に見えて分かった。

その日の私は、どこかぼうっとしていた。ユウヒが病に倒れて機械の調整がおろそかになっていたためかもしれないし、ユウヒのことを心配して気もそぞろになっていたのかもしれない。兎にも角にも注意力散漫だった私は、うっかり研究室の中に置かれた本棚から本を落としてしまった。床に広がった本を慌てて拾い上げると、その中から数枚の写真が落ちてきた。よく見れば、どうやら私が手に持っているのは本ではなく小さなアルバムのようだった。あの人付き合いのなさそうなユウヒでも、写真を撮る相手がいたのかな。そんなことを考えながら写真を見て―一瞬、息が止まった―ような、気がした―私は呼吸をしていないので、気がしただけだけれど。

そこに映っていたのは、私にそっくりな顔をした少女だった。

だがしかし、それが私の写真でないことは明らかだった。私が着たことのない服、私が行ったことのない場所、私が作ったことのない笑顔。どこを取っても私ではない。じゃあ、これは誰なのだろうか。写真を裏返すと、黒いペンで小さく文字が書いてあった。

〈2☓☓☓ 11/4 希、18歳の誕生日〉

その名前を見て、私は全てを理解した。

 

とんとん、とドアをノックする。

「…どうぞ」

部屋の中から返事があったのを確認して、部屋の中へ入る。

「どうしたこんなじ―」

かんに、という言葉は、こちらに目を向けたユウヒの舌の上で、擦り切れるように消えていった。

私は先ほど写真で見た通りの笑顔を作って、ユウヒに語り掛けた。

「こんにちは、お兄ちゃん」

ノゾミは、私の名であって、私の名ではなかった。

それは、ユウヒの妹の名前だった。

ユウヒは妹のことを深く愛していたのだろう―人間嫌いを自認していながら、アルバムを作って後生大切に取っておくほどに。だが、その妹は錆の病で亡くなった。だからこそ、ユウヒは私を作ったのだ―妹にそっくりのアンドロイドを。

ユウヒは私の姿を見て、暫くあっけにとられたような表情で小さく震えていた。

「…のか」

ふと、その唇が動き、小さく言葉が漏れた。

「…見たのか、写真」

そのただならぬ様子に一瞬どう答えたものか迷ったが、私は素直に

「うん、見たよ、お兄ちゃん。それがどうかしたの?」

と答え―ようとしたところで、ユウヒが叫んだ。

「やめろ!その声で!僕を!その呼び方で呼ぶな!違う!違う違う違う違う違うっ!希はそんな呼び方をしない希は違う!希は希は違う希は希希希希希希希希希希希希希希希希希希希っ…」

唐突に狂ったように叫ぶユウヒにどうしていいのかわからず、私はただ立ちすくんでいた。ただ、これだけが分かった―私は、何かを、間違えた。

私は、彼を、幸せにできなかった。

「…地下室に、連れていけ」

息を荒げていたユウヒが、ぼそりといった。

「―え」

「いいから連れていけ!見せてやるよ、お前がどういうものなのかを!」

ユウヒの今まで見たことのないような剣幕に、私は抗うことはできなかった。

彼を背負って研究室へ入り、床に取り付けられた取っ手を引く。

「―っ!」

その奥を覗き込んで、思わず息をのんだ。

先ほどと同じような、いや、先ほどの上位互換のような怖気が背筋を走った。

地下室の中には、私と全く同じ顔をしたアンドロイドのボディが何十体と無造作に積まれていた。

「―こいつらは」

私の背中から聞こえるはずのユウヒの声が、どこか遠くのものに聞こえた。

「こいつらは皆、失敗作だ。最初の「ノゾミ」は自分が人間ではなくアンドロイドであることを認識した瞬間に発狂して壊れたよ。ある「ノゾミ」は自分がある人間の代替品に過ぎないことを苦痛に感じてストレスのせいで機能が停止した。ある「ノゾミ」は自分の顔がコピーであることに耐えられず自分の顔をメタメタに歪めた。ある「ノゾミ」はあまりに理想通りの妹であったから、僕がその再現度の高さに耐えられなくてこの手で壊した。全部、僕の―失敗作で、罪であり、罰だ」

ユウヒの声は、いつの間にか落ち着きを取り戻していた。

「だから僕は、もうあきらめたはずだったんだ。妹のレプリカを作ったって、結局妹は―希は蘇らない。だったらせめて、妹とは関係なく、僕の最期を看取る人形くらいは作れるだろうって、そう思って作ったのが、お前だったんだけど―」

「私も、なのですか」

問うた私の声は、震えていた。

「私も、失敗作として、ここに並べられるのですか」

 

「ただの無機質な塊として、ここに打ち捨てられるのですか」

 

「作った人の手で―幸せを願った人の手で、殺されるのですか」

 

ユウヒはそれに対して「いいや」と答えた。

「もう僕に、君を壊す力は残ってないよ。―だから、「ノゾミ」。今すぐに君の手で、僕を」

殺してほしい。

ユウヒは笑顔でそう言った。

寂しげな、悲しげな、笑顔だった。

私は少し間をおいて―答えた。

「申し訳ありません、従えません。」

とたんにユウヒの表情が、狼狽へと変わる。

「なんで―どうして」

「私の使命が、あなたを幸せにすることだからです」

ユウヒはますます訳が分からないという表情になった。

「だから、僕は今すぐにここで―」

「ここで死んだところで」

 

「あなたは、失敗作となった「私」への罪の意識を背負ったまま、心の中に悔いを残したまま、悲しい気持ちのまま、そこから逃れようとしているだけです」

 

「私はそれを幸せとは認めません―そんな無意味な逃避行を、幸せとは認められません」

 

「あなたの幸せは、彼女たちへの罪の意識を晴らすこと以外にあり得ません」

 

「だから―」

 

私は、あなたを殺さない。

そういうとユウヒは、私の背中でかぶりを振って「無茶苦茶言うなあ」とつぶやいた。

「すみません。何せ、失敗作なもので」

私の返答にユウヒは小さく笑った。その笑顔は先ほどの自嘲するようなものではなく、どこか憑き物が落ちたような顔だった。

「―それじゃ、「ノゾミ」。ちょっと手伝ってくれないか」

やりたいことがあるんだ―その言葉に、私はしっかりとうなずいた。

 

「私」の亡骸を一体一体すべて地面に埋める作業には、六日間かかった。

もう右腕以外ほとんど動かない体で、それでもユウヒは懸命に穴を掘った。

人一人分の穴が掘れたら、そこに「私」のボディを埋め、簡素な墓標を立てて、手を合わせた。

「お前は、自分がアンドロイドだってわかったとたんに狂っちゃったんだよな―ごめんなさい」

 

「お前は、自分の顔をぐしゃぐしゃにつぶして壊れちゃったっけ―ごめんなさい」

 

「お前には本当に悪いことをした―お前はきちんと「希」を演じてくれたのに。ごめんなさい」

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ユウヒは手を合わせるたびに「私」に謝った。

全ての―五十二体の「私」を地面の下に眠らせて、それから。

私とユウヒは五十三個目の穴を掘り始めた。

私もユウヒも、もう何も話さなかった。ただ黙々と、穴を掘り続けていた。

よく晴れた日の事だった。太陽が真南より少し西に傾いたころ、五十三個目の穴は、完成した。

もう言葉はいらなかった。

私はユウヒを抱えあげ、穴の淵に立った。

「―なあ、ノゾミ。」

ユウヒがふと呟いた。その声は掠れ、今にも消えてしまいそうだった。

「はい、何ですか」

私はユウヒに聞こえるよう、少し大きな声で答えた。

「一回だけ、ユウヒって呼んでくれないか―希は、僕のことを、そう呼んだんだ」

私はうなずいて、その名前を呼んだ。

「―ユウヒ」

ユウヒは小さく指を動かして、「もう一回」と言った。

「ユウヒ」

もう一回。

「ユウヒ」

もう一回。

「ユウヒ」

もう一回―。

何度そのやり取りを繰り返したか、わからない。

気づけば、日はすっかり傾いて、じりじりと私の背中を焼いていた。

ユウヒの指は、口は、眼は、少し前からもう動かなくなっていた。

「―おやすみなさい」

私はそう言って穴の底にユウヒを横たえた。

彼の表情は、穏やかな笑顔だった。

「大好きだったよ、お兄ちゃん」

私はユウヒの体に土をかけ、彼を埋めた。

埋めた。

埋めた。

埋めた。

 

 

違うんです。これはあの、まだ広義の25日なのでセーフなんです嘘ですごめんなさい許してください

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初めての https://anqou.net/poc/2018/01/08/post-1005/ https://anqou.net/poc/2018/01/08/post-1005/#comments Mon, 08 Jan 2018 14:56:57 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1005 一月一日。

元旦。

僕は、目の前の白絹のような素肌に、ただただ魅せられていた。

彼女は僕のことなど眼中にない様子で、しなやかな肢体を白い床の上に横たえている。その柔らかな曲線と直線の黄金比が、僕の瞳を捕えて離さないのだった。

上気した人肌のぬくもりが、僕の肌を絶えず愛撫する。

思わず生唾を飲み込んだ。

その瑞々しい肌には一点の曇りもなく、洗練された白。穢れや濁りの一切ない、本物の白。「初めて」にふさわしい――そう思った。

手で触れる。わずかに震えていたのは彼女だろうか、それとも僕だろうか。触れた指先を見れば、しっとりと湿っていた。

僕は小さな瓶を手に取り、なだらかな曲線の上から、琥珀色の液体を垂らした。それは重力に誘われるままに、ゆっくりと彼女の体を舐めまわしていく。清廉なものを、この手でもって穢してしまった――その背徳感にも似た昂奮が、僕の背筋を這いまわった。

琥珀色に汚された彼女は、微動だにしなかった。ただ体を横たえているだけだった。しかしその気丈な姿は、かえって僕の欲望を駆り立てた。

もう我慢できない。

僕は箸を手に取り、小鉢の中の白い塊にあてがい、一気に押し開いた。

そのまま口の中へと運ぶ。

新年一発目の湯豆腐、おいしい。

やっぱり冬はこれですよね。

 

 

何故記念すべき初投稿をこんなクソみたいな始まり方にしてしまったのでしょうか。僕にもわかりません。

これだけを投稿すると、記事が短すぎるし僕の印象が湯豆腐に欲情する変態になってしまうので、弁明の意味も込めて自己紹介をします。させてください。

初めまして、トルクメニスタンです。パキスタンとも言います。京都大学文学部の末席を汚しております。文学部だから文章がうまいのかと言えば(まあ上の文章を読めばわかってもらえると思いますが)そんなことはありません。これからもっと上手になっていけたらなあと思います。よろしくお願いします。

さて、なぜ僕が冒頭で湯豆腐に欲情していたのかというと、はんぺんの話をしたかったからです。

はんぺん。

おでんとかに入っている、白くてのっぺりしたやつか―きっとこの記事を読んでくださっている皆様の多くは、そう思っていることでしょう。しかし、僕にとってのはんぺんは、白いものではありません。

僕にとってのはんぺんは、黒いものです。

何を隠そう誇り高き静岡県民である僕は、生まれてこの方、静岡県特有の「黒はんぺん」しか見たことがありませんでした。白いはんぺんなるものの存在は知っていましたが、言うなればそれはカバディやシーラカンスと一緒で、「あるらしいけどそんなの見たことないし一生触れる機会なさそう」なものだったのです。

しかし先日、京都某所にて、僕は白いはんぺんを見つけてしまいました。見つけた瞬間は、そりゃまあ衝撃でしたね。白いんだもん、はんぺん。天然記念物を発見したTOKIOの気分でした。そして、驚きと同時に、一種の感動を覚えました。そうか、白いはんぺんってやつは、ほんとうにあったんだなぁ―と。ほんの些細なことですが、それでも僕は、なんとなく幸せな気分になれたのでした。

地元を離れ下宿している、所謂「下宿勢」の皆さんにも、はんぺんの話ではないにせよ、似たような体験はあるのではないでしょうか。自分がこれまで生きてきた十数年間をころんとひっくり返してくれるような、「初めて」との邂逅。それって案外、いつも買い物をするスーパーとか、毎日惰性で走る通学路とか、そういう身近なところにあるのかもなって、そんな話でした。

駄文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。溶け合った混沌の末端にまで目を配ってくださった皆様に、ささやかな幸せのありますように。

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