2018年春季投稿大会 | カオスの坩堝 https://anqou.net/poc Chaos is not kaos. Thu, 29 Mar 2018 13:30:01 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.1.1 https://anqou.net/poc/wp-content/uploads/2018/02/9dc10fe231765649c0d3216056190a75-100x100.png 2018年春季投稿大会 | カオスの坩堝 https://anqou.net/poc 32 32 【ミリマスSS】雪解け https://anqou.net/poc/2018/03/29/post-1482/ https://anqou.net/poc/2018/03/29/post-1482/#comments Thu, 29 Mar 2018 13:30:01 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1482
この日、もう三月なのにも関わらず東京は未曽有の大雪だった。主要な交通網は軒並みやられ、駅やロータリー、バス停は、藁にもすがる人々と行き場を失った鉄の塊で埋め尽くされていた。
そんな光景を物珍しそうに眺める一人の少女がいた。彼女の名前は箱崎星梨花。765プロダクションというアイドル事務所に所属するアイドルの卵である。彼女はそれまで大企業の社長令嬢として両親やその周囲からも大事に育てられていたが、自分の世界を広げるために十三歳という若さで親の反対を押し切り、アイドルとなった。実力も実績もない彼女は、現在絶賛レッスン漬けの日々を送っており、たまに仕事が入ったとしても先輩たちのバックダンサーなどといったものであった。
今日もレッスンを終えて帰路についている途中だった。この天気ということもあり、765プロのプロデューサーや事務員、果てには社長までもが、アイドルたちの帰宅対応に追われていた。家までの距離、道路状況などを考慮して人員が割かれ、それでも余った者達は近くの家の人や大人組にお願いして泊めてもらうということになっている。星梨花は自主帰宅ということになった。家までの距離がさほど遠くはなく、また親の送迎があるということからであった。
親に事情を話すと流石に雪のせいで事務所までは迎えに来れないということなので、最寄り駅までは星梨花一人で帰ることになった。プロデューサーは心配したが、星梨花は静止を半ば強引に振り切って帰路についた。一人で帰ることの恐怖よりも、雪の街並みを感じてみたいという欲求のほうが遥かに大きかったからである。時折、強風で傘が吹き飛ばされそうになるが、何とか耐えてはスキップで足を進めるといったことを繰り返して駅に辿り着いた。
物珍しさに目を奪われていたのも束の間で、星梨花は帰路を奪われた人々の険悪な雰囲気によって我に返った。星梨花には門限がある。辺りも暗くなっているので悠長に社会見学をしている場合ではない。星梨花は立ち往生している大人たちをひょこひょことかわしながら急いで改札まで駆け上がった。鞄から電車用のプリペイドカードを取り出し、改札をくぐろうとしたその時に、星梨花の目に衝撃の文字が映った。
「えっ……」
全線運転休止、復旧の見込みはないらしい。しばらく呆然としていたが、自分が改札の前で突っ立っていることに気づき慌てて身をかわしたが、後ろに続くものは無い。ぐるりと辺りを見回したところ、相変わらずスーツ姿の大人たちの喧噪に包まれている。中には駅員に八つ当たりをしている大人もいた。星梨花はそんな空気に耐えられずにその場を離れた。
しばらく歩いていると駅構内でも比較的静かな空間に辿り着いた。それまでに少し冷静な思考を取り戻していた星梨花はこの状況をプロデューサーに連絡することにした。一コール、二コール、と耳元で呼び出し音が響く。この瞬間、世界と切り離される瀬戸際に立っているような気がして星梨花はもどかしかった。六コール目あたりで限界に達し、星梨花は通話を切断した。次に頼れるのは両親である。しかし、事務所までは車を出せないと先程言われている。それでもダメもとで星梨花が母親に電話をかけようとした刹那、手に持っていた携帯が聴きなれた着信音と共に震えた。表示画面にはプロデューサーの名が映し出されていた。
「もしもし箱崎です……」
「あぁ、星梨花か!? さっきは出られなくてすまん。それで、家にはたどり着けたのか?」
「……プロデューサーさん!!」
星梨花はプロデューサーに事の顛末を話した。プロデューサーは自分が浅はかだったとでも言わんばかりにため息を漏らした。プロデューサーを始め、社長も事務員もすでに事務所とは離れた位置まで送迎にあたっている。今から戻ったところで小一時間はかかるであろう。それにこの天気である。いつ来るかも分からない迎えを今の星梨花が待てるわけにもなかった。
星梨花もプロデューサーもなすすべなく、いたずらに時間だけが過ぎ去っていく。まさに八方塞がり、今にも溢れだしそうな涙を何とかこらえ、星梨花は最後の望みに手を伸ばすために、プロデューサーに一旦、別れを告げた。
無料通話アプリから慣れた手つきで素早く母親の名を探す。これが外れたら言葉通り、詰みである。いつもは気軽に呼びだしてはいたものの今回ばかりは動機が抑えきれそうになかった。十秒、二十秒と心を落ち着かせるために使い、意を決して通話ボタンに手をかけたその時だった。
「箱崎さん……?」
突然、後方から名を呼ばれ、星梨花は振り向いた。そこには星梨花が良く知っている人が立っていた。彼女の名前は如月千早、765プロの星梨花の先輩にあたる人物である。先輩とはいえ、星梨花はまだ下積みの見習いアイドルである。星梨花と千早の間に接点はほぼ皆無に等しく、千早の方が星梨花のことを知っていたことも不思議なことである。そんな疑問を抱くよりも早く、見知った人に出会えたことで緊張が解けた星梨花はぐちゃぐちゃの顔で千早に飛びついた。


「……ということで箱崎さんは今私の家で寝かせていますけど」
「本当にすまん、千早。ラッキーだったよ。お前がそこを通らなければ今頃どうなっていたものか……」
「ラッキーだとかそういう話ではありません! 年頃の女の子に一人で帰らせるなんてプロデューサーも少しは危機感を持ってください!」
星梨花は千早に連れられて、一時的に千早の家に入れてもらうことになった。星梨花は千早の家につくなりまどろみに飲まれた。やっと安心できる場所に辿り着いて、一気に気が抜けたのだろう。千早は彼女を寝室に運び、布団をかけた。その後、報告ということでプロデューサーに怒りの電話をかけたのである。
「それに関しては本当に申し訳ないと思っている。ただ、やたら星梨花が一人で帰るって言い張るもんだから、あと雪で人も足りてなかったし……」
「そういう言い訳は結構です! 何か起こってからでは遅いんですよ!? 今回は運が良かったから本当に良かったですけど……、もう二度とこんなことしないでくださいね!?」
寝ている星梨花のことなどいざ知らず、千早はマイク越しに怒声を上げる。千早の言っていることはどれも正論ばかりでプロデューサーはただ謝ることしかできなかった。

千早の声により星梨花は徐々に意識を取り戻していた。いつもと違う景色に最初こそ困惑したが、微かに聞こえる透き通った美しい声は、星梨花の頭を整理させるには十分だった。一つだけあった窓の外を見ると、一面の黒の上を絶えず白点が真横に通り過ぎていた。結局両親には連絡できていない。心配させるといけない、しかしまずは世話になった千早に礼をするのが道義だろうということで星梨花は声の聞こえるリビングに足を進めた。
「この前だって……、あ、箱崎さん、おはよう。気分はいかがかしら」
千早は星梨花に気づくなり、優しく声音を変えて微笑んだ。それを察したプロデューサーは頭を抱えたようにした後、星梨花に代わってくれ、と言った。星梨花は千早から携帯を受け取ると、数時間ぶりのプロデューサーとの会話に僅かな緊張を覚えた。
「もしもし、星梨花か? よく眠ってくれていたようで何よりだ。それより、さっきは俺の配慮が甘かったせいで本当にすまんな」
「いえ、プロデューサーさんのせいじゃないです。本当にご迷惑をおかけしました」
星梨花がペコリと頭を下げる。それを横で見ていた千早は思わず笑った。
「それでなんだがな星梨花、外はさっきよりも酷い天気になっているし、さっきよりも尚更帰るのは無理だろう。だから今晩は千早の家で一泊させてもらってくれ」
プロデューサーの突然の提案に、星梨花は心底驚いた。星梨花は一瞬千早の方を向いて、すぐにプロデューサーに詰め寄った。
「そんなのできません! ただでさえ千早さんにはご迷惑をおかけしているのに、これ以上は本当に……」
「プロデューサー、聞こえますか? その件に関してなら大丈夫です。箱崎さんの面倒、私に見させてください。」
千早は星梨花の横からマイクに向かって聞こえるようにこう言った。星梨花は余計驚いて、目が点になっていた。プロデューサーはじゃあよろしくな、とだけ言って電話を切った。星梨花は一人取り残されたように感じずにはいられなかった。
「千早さん! 本当にいいんですか!? 千早さんのご都合もあるでしょうし……」
「大丈夫よ。私、明日はオフなの。それに春香なんて、私の都合とか全く関係なしに来たりするのよ? だから気にしないで」
「でも、私と千早さんは、その……、春香さんと千早さんみたいに仲良しじゃないですし、今までほとんど話したこともないですし、申し訳ないですよ……」
「あら、箱崎さんは私の家に泊まるのが嫌なの?」
千早はニヤニヤしながら意地悪な質問をする。星梨花は慌てて否定した。じゃあ決まりねと言い残し、千早は来客用の準備を始めた。星梨花は手伝おうとしたが、千早に静止されると二人掛けのソファの上にちょこんと座り、せっせと動く千早を目で追いかけ始めた。
あらかた準備を終えた千早はうんと伸びをした後、星梨花の隣に腰かけた。星梨花は緊張で体をガチガチにしていた。千早は星梨花の緊張をほぐしたいとは思ったものの、どうしたらよいか分からないでいた。暫し沈黙が続いた。この状況を打ち破ったのは星梨花だった。
「あのっ! 千早さん!」
決して狭くはない部屋に大きな声が響き渡る。千早は内心驚いたが、さも何ともない風に装う。星梨花がそれに気づいた様子はない。その大きな瞳はじっと千早に向けられたままである。
「さっきは言いそびれちゃったんですけど、今日は本当にありがとうございました。私、千早さんがもしあそこを通らなかったら、ずっとあのままだったかもしれませんでした」
星梨花の生真面目さに千早はふと笑みをこぼした。この一言のおかげで千早も多少余裕が持てたようだ。
「……さて、晩御飯にしましょうか。この天気じゃ買い出しに行くのは無理だろうし、余っているものでも構わないかしら?」
「いえ、お構いなく! ご馳走になるだけでも厚かましいのに、そんなご注文までできないです」
「そう? 箱崎さんがそう言うならこっちで勝手に作っておくわね。実は私、料理を始めたのは比較的最近だからあまり自身がないの」
千早は自嘲気味に言ってみせたが、すぐに後悔した。これでは星梨花に気を遣わせてしまうだけである。
「いえ! 私、千早さんのお料理すっごく楽しみにしています! ママ以外の人に料理してもらうのって何だかとても新鮮です♪」
すかさずフォローを入れるあたり、星梨花の育ちの良さが垣間見える。普段に過ごしている者達とは違った反応で、千早は新鮮に感じた。
「ありがとうね、箱崎さん」
「あの……」
星梨花が何か言いたげにしている。千早はどうしたの、と星梨花に尋ねる。
「箱崎さん、じゃなくて星梨花でいいです。千早さんは先輩ですし気を遣ってもらうのは何だか申し訳ないです」
千早は一瞬戸惑ったが、すぐに要求を呑むことにした。見た目とは裏腹に積極的にガツガツくる星梨花に千早は感心すらした。
「じゃあ星梨花、ご飯ができるまで待っててね。ちょっと時間がかかるかもしれないけど大丈夫?」
「はい! ところで、一体何を作ってくださるんですか?」
「そうね……、肉じゃがを作ってみようと思うの。星梨花は肉じゃが、食べたことあるかしら?」
星梨花はひとしきり考えた後、分からないです、と答えた。
「じゃあ決まりね。肉じゃがはこの前春香に教えてもらったばかりなの。優しい味で、絶対に好きになるわ」
そう言って千早は少しだけ真剣な目になって作業に入った。星梨花は時折聞こえる包丁の軽快なリズムに乗ったりしながら、まだ見ぬ肉じゃがに思いを馳せていた。

「これが肉じゃがですか? 何だかカレーみたいですね!」
「星梨花、それ、カレーなの……」
うなだれる千早。張り切って肉じゃがを作ったものの、肉じゃが特有の甘さが引き出せずにパニックになった。慌てて春香にメールすると、カレーに転用できるということであり、幸いカレールーは自宅にあったため、やむを得ずカレーにした。後輩の前でいいところをみせるどころか醜態をさらしてしまい、千早は顔から火が出そうな気分だった。
それでも星梨花は嬉しそうにしている。プレートいっぱいのカレーを目の前にもう待ちきれない様子だ。今日だけはこの好意を素直に受け取ろう、そう決めて千早は食事の挨拶を粛々と行った。
食後、満足そうな星梨花の顔を見て千早は安心した。やはりカレーは万国共通、最も外れを引きにくい料理の一つであろう。千早が片付けをしようと腰を上げると、すかさず星梨花は手伝いを申し出た。千早は一緒に皿洗いを手伝ってもらおうと思ったが、星梨花の背ではシンクを使うのも困難であろう。千早は一通り逡巡した後、お風呂を沸かしてもらうことにした。はい!、と元気な声で返事をして風呂場に走っていく姿を見て、千早は可愛い妹ができたみたいで微笑ましい気持ちになった。
千早が皿洗いを終えたのとほぼ同刻に、星梨花も風呂の準備を終わらせて戻ってきた。千早は星梨花に先に風呂に入るよう指示した。ここで多少の譲り合いが発生したものの、最終的には星梨花が折れて風呂場に向かった。幸いスリーサイズはほとんど変わらないこともあり、星梨花の着替えは全て千早のものを借りることで解決した。風呂に向かう星梨花の去り際に千早がくっ、と漏らしたが、その声は誰にも拾われることはなく虚空に消えていった。

一人部屋に残された千早は、ソファに身を投げボーっと天井を眺めた。突然の来訪だったが面倒などといった感情は全く起きず、むしろ楽しかったと思っている自分自身に千早は驚いていた。かつては孤高の歌姫とも言われるほどだったが、今ではしっかり者のみんなの頼れる先輩である。本当に変わったな、と千早は思った。昔の千早は何でも一人で高みに目指そうとしていた。しかしそんな独りよがりな考えがどこまでも通用するわけはない。それを千早に理解させたのが765プロである。仲間と過ごし、切磋琢磨し合い、沢山の後輩もできた。あの時もし765プロに入っていなければどうなっていただろうか。そんなもしもを考えても無駄だなと思って千早は目を閉じて今の幸せを噛みしめた。
(今度、もっと多くのみんなをうちに招待しよう。春香や美希、真に律子、水瀬さんに高槻さん、あずささんに萩原さん、亜美真美に我那覇さんと四条さんもね。料理ももっと練習してみんなで美味しく食べて、これまでのこと、これからのこと、夜が明けるくらい語り合おう。それで……)

うっかり睡魔に飲まれた千早が目を覚ました頃には、星梨花は既に風呂から上がっていた。千早の体には毛布がかけられている。千早は星梨花にありがとうとお礼を言った後、机に置かれた時計に目を遣った。思ったよりも寝てしまっていたことに後悔した千早は急いで風呂に入る準備を始めた。
「ちょっとのつもりだったんだけど随分眠ってたみたいね。ごめんね星梨花、もう寝ててもいいからね」
「はい……、ふわぁ」
星梨花は眠気に耐えきれずに欠伸を漏らしてしまう。千早は星梨花を寝室に移動するよう勧めた。星梨花ははい、と頷いた。この調子であれば上がったころには夢の中だろうと軽んじて、千早も風呂に入った。
予想と反して、千早が上がった時も星梨花は半目でありながらも意識を維持していた。その健気な姿を見ながら、千早は星梨花が本当の妹だったらなと非現実なことを考えていた。起きているだけで辛そうなので、千早は星梨花を寝かしつけることにした。
寝室には予め敷いておいた布団が二つ並べてある。千早は普段からこの部屋で睡眠をとっているが、来客の際には布団をもう一組収納から取り出している。
「じゃあ星梨花は奥の布団で寝てね。明日は何か予定があるの?」
「いえ、私もオフなので特に何もないです」
「そう、じゃあ好きなだけ眠ってもらってかまわないわ。自分の家のように思ってもいいわよ」
千早の言葉に星梨花は思わず笑って、ありがとうございます、と返した。それきり会話は途絶える。しかし先程のようなぎこちない沈黙ではない。二人の間には心の脈が波打っている。
「あの、千早さん」
星梨花が千早に話しかける。千早はそれに応じた。
「私、千早さんがどうしてアイドルになったのか、一人前のアイドルには何が必要で、千早さんが何を大切にしてるのか……、私、千早さんの事もっと知りたいです」
千早はこの手の質問が苦手だ。しかし、拙い言葉ながらも一語一語大切に紡いで星梨花に伝えた。まるで子供に語りかけるように、優しい言葉で千早は語る。話しているうちに千早の耳にすぅすぅと寝息が聞こえた。星梨花は幸せそうに眠っている。天使のような寝顔を見ているうちに、千早も眠気に誘われてまどろみに落ちた。


翌朝、先に目覚めた千早は二人分の朝食を作っていた。リビングには心地の良い日差しが差し込む。昨日の雪は見る影無く、春の色が街を包んでいる。今日は散歩にでもでかけようか、と千早が考えていると星梨花が目を覚ましてリビングにやってきた。
「おはようございます……」
「おはよう星梨花。もうすぐで朝ごはんできるからそこで座って待っててね」
星梨花が寝ぼけ目で腰かける。それから数十秒後に食事がキッチンから運ばれてきた。二人は向かい合っていただきます、と手を合わせた。
「千早さん、本当に色々ありがとうございます。朝ごはんまでいただいちゃって……、準備ができ次第、お暇しますので」
「ふふっ、そんなに急がなくてもいいわよ。ゆっくりしていって頂戴」
それから他愛のない会話を続けていると、突然星梨花の携帯が鳴り響いた。星梨花はそれを手に取り名前を見る。発信元はプロデューサーだ。星梨花がチラと千早の方を見たが、構わないとのことだった。星梨花は通話ボタンに手をかける。
「おはよう星梨花。昨晩はよく眠れたか?」
「はい! 千早さんにも良くしてもらって本当に楽しかったです!」
「そうか、それは良かったな! ところで星梨花伝えておかなければならないことがあるんだが……」
プロデューサーはもったいぶった言い方で続ける。
「次の公演、星梨花にセンターをやってもらいたいと思っている。どうだ? いけそうか?」
星梨花は突然の知らせに開いた口が塞がらなかった。しばらくして落ち着いた星梨花は千早の方に視線を移す。そこにはセンター大抜擢を心から祝福する千早の姿があった。
「そんで、センターやれそうか?」
プロデューサーが再度問いかける。星梨花の答えはもう決まっていた。
「はい! 私、センターやります!」

後日、如月家に大量のお礼品が届いたのはまた別の話。

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ノゾミ https://anqou.net/poc/2018/03/26/1393/ https://anqou.net/poc/2018/03/26/1393/#comments Sun, 25 Mar 2018 16:55:31 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1393 私の視界に最初に映ったのは、真っ白な天井だった。

「―うん。今度こそ、成功だ。」

そんな声を聞きながら、私は上体をゆっくりと起こし、辺りを見回した。

そこは、真っ白な部屋だった。天井も白、壁も真っ白。私の右側には小さな窓があり、そこに取り付けられたカーテンもやはり白かった。左を向くと、白衣を着た男が一人、白いコンピューターの前に座っていた。年の頃三十前後と思われるその男は、白衣に分厚い眼鏡も相まって見るからに「研究者」といった風貌だった。黒い短髪が、部屋との対比で妙にはっきりと見える。先ほどの声は、どうやらこの男が発したもののようだった。男は立ち上がってワタシのほうに歩み寄りながら、言葉をつづけた。

「はじめまして。僕の名前はユウヒ。君の製造者だ。」

「―製造者」

「君の名前は、ノゾミ。」

「―ノゾミ」

「君は、僕の身の回りの世話をするために作られた、アンドロイドなんだ」

「―アンド、ロイド」

そう言われても、目を醒ましたばかりの私には、それがどういうことなのかよくわからなかった。ただ、ワタシの視線の向こう側にいる彼とワタシの間には、何か大きな違いがあるのだという、それだけは妙にはっきりと分かった。

「―わかり、ました。私は、人間ではない」

「そう、君は、アンドロイド。」

「あなたの、世話をする」

「そう、君の生きる理由は―」

彼はそこで少し言葉を切って、少し遠くを見ながら言った。

「僕を、幸せにすることだ。」

 

ユウヒと名乗った男は、私にゴシック調のエプロンドレスを与えた。「かわいいだろ」とどこか自慢げに渡してきたあたりを見ると、どうやら彼の趣味らしい。あまりいい趣味とは言えないな、と思った。彼はそれを着た私に炊事や洗濯、掃除などの仕事を申し付けた。仕事はどれもさほど苦にはならなかった。ユウヒの家はそれほど広くなかったし、料理や洗濯も一人分ならばたいした量にはならない。時間を持て余した私は、裁縫をしながらユウヒと話すことで時間をつぶした。

「数年前まではこの辺にも人間がいっぱいいたんだけどね」

ユウヒは本の頁を繰りながら言った。

「みんな死んでしまった―錆の病で」

「錆の病、ですか」

「そう、錆の病―茶色い斑のあざが体中に表れて、皮膚がはがれ、最後は死に至る病。原因不明、感染源も不明、どこからともなく突如として現れた病。みんな、それに罹って死んでしまったけど―僕だけが、生き残った」

独り言のようにそう語るユウヒは、どこか寂しそうだった。

「寂しいのですか」

そう尋ねると、ユウヒは首を横に振った。

「まさか。むしろせいせいしたくらいさ。どうも僕は人間ってやつと折り合いが悪かったからね。気ままな一人暮らしができるようになって、万々歳さ」

ユウヒはやっぱりどこか寂しそうだったけれど、私はそれ以上聞かなかった。

 

ユウヒはどちらかと言えば寡黙な人で、あまり表情を動かさなかった。しかし、よく見ると食事がおいしかった時や読書中に好みのフレーズを見つけたときに時折ピクリと眉が動く。私はそのしぐさが人間臭くて好きだった。あまり自分から話を始めるということはなく、私の言葉にユウヒが答える形で会話が始まることがほとんどだったし、終わるときも私の言葉で終わりがちだった。失礼な話だが、お世辞にも話が上手いタイプとは言えなかった。彼が自分から始めた話は、先ほどの「錆の病」のようにどうも膨らまなかったし、私の話を広げる応答をしてくれることもあまりなかった。他の人間と深いかかわりを持たなかった、というのは納得できる話だ。この人間との相性の悪さのおかげで病に罹らなかったのかな、なんてことをふと思った。

 

私とユウヒの生活は、あまり変化のないものだった。毎日ルーティーンのように私は朝食を作り、洗濯をし、掃除をして、昼食を作り、もう少し掃除をして、裁縫をしてから夕食を作ったし、ユウヒはその間ずっと本を読んでいた。彼が読んでいる本の内容は日によってばらばらで、薄っぺらいミステリー小説のこともあれば、何か難しい論文を読んでいることもあった。彼はどうやら内容を吸収することよりも活字を目で追うことに満足しているようだった。

彼の読む書物は、私たちの家の中では一番大きな部屋である書庫に保管されていた。中には図書館から拝借してきたものもあるようで、カバーに透明なフィルムやラベルが貼り付けられていた。「図書館に眠ったまま誰も読まないよりは、僕が読んであげた方がいいだろ」というのが彼の言い分はもっともなもののようにも思われたし、何かおかしいような気もした。

書庫以外にも家にはキッチン、ダイニングルーム、居間、ユウヒの部屋、私の部屋、それから計器がたくさん置いてある研究室のような部屋があった。ほとんどすべての家事を私に任せたユウヒだったが、研究室には彼なりのこだわりがあるようで、私の開発という役目を終えた今でも毎日自らの手で掃除をしていた。それからこの家には、もう一つ部屋があった。研究室の床下に設けられた地下室だ。ユウヒは私に、この部屋には立ち入らないよう固く言いつけた。何があるのか気にならないではなかったが、私の使命は「ユウヒを幸せにすること」なので、私は地下室について何も言及しなかった。ユウヒも地下室の中身については一切触れようとしなかった。

そうやって、アンドロイドと人間は、小さな隠し事とささやかなルーティーンを蜜に溶かしたように甘やかに続けていた。

しかし、やはりその日は来てしまった。

「―ああ、だめだこりゃ」

自分の左腕にできた茶色いあざを指先でつつきながら、ユウヒは不自然なほど自然な調子でそう言った。あざはつついた先から、古くなったかさぶたのように腕から剥がれ落ちた。

「これが―」

「そう、錆の病。いずれ全人類を滅ぼすであろう病。」

嘆く様子も悲しむ様子もなく、淡々とユウヒは言った。

「いつか来るだろうとは思ってたけどね。思ってたよりも早かったな」

「痛くは、ないのですか」

「うーん、痛みはないな。皮膚がはがれてるのにね」

「―では、辛くは、ないのですか」

「いや、全然。むしろ憑き物が落ちたような気分さ」

あまり笑えないジョークだったが、私は雑な笑顔を浮かべた。

「錆の病は、最初にあざが出てから三週間ほどで死に至る。その日が来たら、僕を埋葬するのは―ノゾミ、君の役目だよ。」

「―はい、わかりました。」

終始淡々とした調子のユウヒに、私も淡々と答えた。

 

錆の病。その進行はユウヒが予想していたよりもずっと早く、最初にあざを見つけてから五日後にはユウヒは自分の足で立つことができなくなっていた。茶色い土くれのようになった肌は本人からすればやはりショッキングなもののようで、彼は食後に胃の中のものを何度か吐き戻した。

「死ぬならもっと楽に死にたかったんだけどね…痛みがない分だけましと思った方がいいのかな」

青ざめた顔でいうユウヒは、どう見たって幸せそうには見えなかった。

彼は自分の部屋のベッドの上で一日の大半を過ごすようになった。書物を読んで一日を終える生活は相変わらずだったが、時々ぼうっと物思いにふけるような様子を見せるようになった。そんなとき彼は、どこかうつろな目で少し上を見上げる―私が目覚めたときに、少しそうしていたように。何を思っているのかは、あまり気にしないようにした。聞いたら答えてくれるかもしれないが、聞かない方が彼は幸せでいられるような気がしたからだ。

彼が動けなくなったため、それまで彼がやっていた研究室の掃除も私が担当するようになった。研究室の中は所狭しと物が置かれており、何に使うのかよくわからない計器が八方から私を見つめているような気がした。ユウヒの意思を汲んであまりものを動かさないように掃除をしていたが、それではあまりきれいにならなさそうだった。私は研究室の掃除を終えるたびに、部屋の角にたまった埃に後ろ髪を引かれる様な思いがするのだった。

錆の病を発症して、八日が経った。ユウヒの体は半分ほどがあざで覆われていて、首元にまで進行していた。食も細くなり、痩せていくのが目に見えて分かった。

その日の私は、どこかぼうっとしていた。ユウヒが病に倒れて機械の調整がおろそかになっていたためかもしれないし、ユウヒのことを心配して気もそぞろになっていたのかもしれない。兎にも角にも注意力散漫だった私は、うっかり研究室の中に置かれた本棚から本を落としてしまった。床に広がった本を慌てて拾い上げると、その中から数枚の写真が落ちてきた。よく見れば、どうやら私が手に持っているのは本ではなく小さなアルバムのようだった。あの人付き合いのなさそうなユウヒでも、写真を撮る相手がいたのかな。そんなことを考えながら写真を見て―一瞬、息が止まった―ような、気がした―私は呼吸をしていないので、気がしただけだけれど。

そこに映っていたのは、私にそっくりな顔をした少女だった。

だがしかし、それが私の写真でないことは明らかだった。私が着たことのない服、私が行ったことのない場所、私が作ったことのない笑顔。どこを取っても私ではない。じゃあ、これは誰なのだろうか。写真を裏返すと、黒いペンで小さく文字が書いてあった。

〈2☓☓☓ 11/4 希、18歳の誕生日〉

その名前を見て、私は全てを理解した。

 

とんとん、とドアをノックする。

「…どうぞ」

部屋の中から返事があったのを確認して、部屋の中へ入る。

「どうしたこんなじ―」

かんに、という言葉は、こちらに目を向けたユウヒの舌の上で、擦り切れるように消えていった。

私は先ほど写真で見た通りの笑顔を作って、ユウヒに語り掛けた。

「こんにちは、お兄ちゃん」

ノゾミは、私の名であって、私の名ではなかった。

それは、ユウヒの妹の名前だった。

ユウヒは妹のことを深く愛していたのだろう―人間嫌いを自認していながら、アルバムを作って後生大切に取っておくほどに。だが、その妹は錆の病で亡くなった。だからこそ、ユウヒは私を作ったのだ―妹にそっくりのアンドロイドを。

ユウヒは私の姿を見て、暫くあっけにとられたような表情で小さく震えていた。

「…のか」

ふと、その唇が動き、小さく言葉が漏れた。

「…見たのか、写真」

そのただならぬ様子に一瞬どう答えたものか迷ったが、私は素直に

「うん、見たよ、お兄ちゃん。それがどうかしたの?」

と答え―ようとしたところで、ユウヒが叫んだ。

「やめろ!その声で!僕を!その呼び方で呼ぶな!違う!違う違う違う違う違うっ!希はそんな呼び方をしない希は違う!希は希は違う希は希希希希希希希希希希希希希希希希希希希っ…」

唐突に狂ったように叫ぶユウヒにどうしていいのかわからず、私はただ立ちすくんでいた。ただ、これだけが分かった―私は、何かを、間違えた。

私は、彼を、幸せにできなかった。

「…地下室に、連れていけ」

息を荒げていたユウヒが、ぼそりといった。

「―え」

「いいから連れていけ!見せてやるよ、お前がどういうものなのかを!」

ユウヒの今まで見たことのないような剣幕に、私は抗うことはできなかった。

彼を背負って研究室へ入り、床に取り付けられた取っ手を引く。

「―っ!」

その奥を覗き込んで、思わず息をのんだ。

先ほどと同じような、いや、先ほどの上位互換のような怖気が背筋を走った。

地下室の中には、私と全く同じ顔をしたアンドロイドのボディが何十体と無造作に積まれていた。

「―こいつらは」

私の背中から聞こえるはずのユウヒの声が、どこか遠くのものに聞こえた。

「こいつらは皆、失敗作だ。最初の「ノゾミ」は自分が人間ではなくアンドロイドであることを認識した瞬間に発狂して壊れたよ。ある「ノゾミ」は自分がある人間の代替品に過ぎないことを苦痛に感じてストレスのせいで機能が停止した。ある「ノゾミ」は自分の顔がコピーであることに耐えられず自分の顔をメタメタに歪めた。ある「ノゾミ」はあまりに理想通りの妹であったから、僕がその再現度の高さに耐えられなくてこの手で壊した。全部、僕の―失敗作で、罪であり、罰だ」

ユウヒの声は、いつの間にか落ち着きを取り戻していた。

「だから僕は、もうあきらめたはずだったんだ。妹のレプリカを作ったって、結局妹は―希は蘇らない。だったらせめて、妹とは関係なく、僕の最期を看取る人形くらいは作れるだろうって、そう思って作ったのが、お前だったんだけど―」

「私も、なのですか」

問うた私の声は、震えていた。

「私も、失敗作として、ここに並べられるのですか」

 

「ただの無機質な塊として、ここに打ち捨てられるのですか」

 

「作った人の手で―幸せを願った人の手で、殺されるのですか」

 

ユウヒはそれに対して「いいや」と答えた。

「もう僕に、君を壊す力は残ってないよ。―だから、「ノゾミ」。今すぐに君の手で、僕を」

殺してほしい。

ユウヒは笑顔でそう言った。

寂しげな、悲しげな、笑顔だった。

私は少し間をおいて―答えた。

「申し訳ありません、従えません。」

とたんにユウヒの表情が、狼狽へと変わる。

「なんで―どうして」

「私の使命が、あなたを幸せにすることだからです」

ユウヒはますます訳が分からないという表情になった。

「だから、僕は今すぐにここで―」

「ここで死んだところで」

 

「あなたは、失敗作となった「私」への罪の意識を背負ったまま、心の中に悔いを残したまま、悲しい気持ちのまま、そこから逃れようとしているだけです」

 

「私はそれを幸せとは認めません―そんな無意味な逃避行を、幸せとは認められません」

 

「あなたの幸せは、彼女たちへの罪の意識を晴らすこと以外にあり得ません」

 

「だから―」

 

私は、あなたを殺さない。

そういうとユウヒは、私の背中でかぶりを振って「無茶苦茶言うなあ」とつぶやいた。

「すみません。何せ、失敗作なもので」

私の返答にユウヒは小さく笑った。その笑顔は先ほどの自嘲するようなものではなく、どこか憑き物が落ちたような顔だった。

「―それじゃ、「ノゾミ」。ちょっと手伝ってくれないか」

やりたいことがあるんだ―その言葉に、私はしっかりとうなずいた。

 

「私」の亡骸を一体一体すべて地面に埋める作業には、六日間かかった。

もう右腕以外ほとんど動かない体で、それでもユウヒは懸命に穴を掘った。

人一人分の穴が掘れたら、そこに「私」のボディを埋め、簡素な墓標を立てて、手を合わせた。

「お前は、自分がアンドロイドだってわかったとたんに狂っちゃったんだよな―ごめんなさい」

 

「お前は、自分の顔をぐしゃぐしゃにつぶして壊れちゃったっけ―ごめんなさい」

 

「お前には本当に悪いことをした―お前はきちんと「希」を演じてくれたのに。ごめんなさい」

 

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

ユウヒは手を合わせるたびに「私」に謝った。

全ての―五十二体の「私」を地面の下に眠らせて、それから。

私とユウヒは五十三個目の穴を掘り始めた。

私もユウヒも、もう何も話さなかった。ただ黙々と、穴を掘り続けていた。

よく晴れた日の事だった。太陽が真南より少し西に傾いたころ、五十三個目の穴は、完成した。

もう言葉はいらなかった。

私はユウヒを抱えあげ、穴の淵に立った。

「―なあ、ノゾミ。」

ユウヒがふと呟いた。その声は掠れ、今にも消えてしまいそうだった。

「はい、何ですか」

私はユウヒに聞こえるよう、少し大きな声で答えた。

「一回だけ、ユウヒって呼んでくれないか―希は、僕のことを、そう呼んだんだ」

私はうなずいて、その名前を呼んだ。

「―ユウヒ」

ユウヒは小さく指を動かして、「もう一回」と言った。

「ユウヒ」

もう一回。

「ユウヒ」

もう一回。

「ユウヒ」

もう一回―。

何度そのやり取りを繰り返したか、わからない。

気づけば、日はすっかり傾いて、じりじりと私の背中を焼いていた。

ユウヒの指は、口は、眼は、少し前からもう動かなくなっていた。

「―おやすみなさい」

私はそう言って穴の底にユウヒを横たえた。

彼の表情は、穏やかな笑顔だった。

「大好きだったよ、お兄ちゃん」

私はユウヒの体に土をかけ、彼を埋めた。

埋めた。

埋めた。

埋めた。

 

 

違うんです。これはあの、まだ広義の25日なのでセーフなんです嘘ですごめんなさい許してください

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春季投稿大会閉幕式、或いは『433行』とはなんだったのか https://anqou.net/poc/2018/03/26/post-1459/ https://anqou.net/poc/2018/03/26/post-1459/#comments Sun, 25 Mar 2018 15:46:59 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1459

mikutterとはなんですか

悪ふざけ

――mikutter FAQより

坩堝に素晴らしい春季投稿大会参加記事が投下されていく中でクソみたいな記事を公開しました。皆さんこんばんは。鮟鱇です。正直死にたい。

もうご存知かも知れませんが、一応パロディの宿命として元ネタを開示しておきますと、ジョン・ケージ作曲『4分33秒』です。4分33秒間無音を演奏するやつです。詳細はWikipediaをどうぞ。

Wikipediaにも書いてありますが、彼は『4分33秒』が演奏されている場所における環境音を音楽としたらしいです。だから私も、文字以外のディスプレイに移るものを作品としようかと。よくわからないですね。私もよくわかりません。

というか今Wikipediaを読んでいたら、この『4分33秒』にも元ネタがあるらしくて、それは何も描いていないキャンバスらしいですね。へー。じゃあ二番煎じかこれ。うわぁ。

ちなみに技術的にこの記事は少し面白くて、HTMLをかじったことのある方ならご存知かも知れませんが、 HTMLで空行を複数作るのって結構面倒くさいんですよね。おまけにWordPress独自の仕様で、普通にEnterを押して改行を作ると、1行が2行分にカウントされたりします。それを防ぐためにちょっとややこしいことをしています。技術的にどのように実装したか興味がある方は「ゼロ幅スペース」とかでぐぐると幸せになれるかも知れません。

閑話休題。ということで(一応)2018年春季投稿大会の幕引きです。いえーい(パチパチ)。楽しんでいただけましたでしょうか。新たに6人の著者をメンバーに加え、総勢32名でこれからのカオスの坩堝を運営して参ります。どうぞご贔屓にお願いします。著者の方々も、ぜひ末永くよろしくお願いします。

さて、次の大きなイベントは夏季投稿大会ですかねぇ。まっ、予定は未定です。

それではまた会う日まで。

――まぁTwitterとか見れば一日中居るんですけど。

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朧月 https://anqou.net/poc/2018/03/26/post-1414/ https://anqou.net/poc/2018/03/26/post-1414/#comments Sun, 25 Mar 2018 15:00:53 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1414 今宵も頭上では綺麗な満月がキラキラ。
でも実際の月はなにも綺麗なところはない。
砂とクレーターしかないこの小さな天体では人類は満足できなかった。
200年前ー人類がこの星に植民し始めた。
100年前ー人類は月から撤退した。”我々”を残して。

100年前にあった崩落事故でエアロック内の酸素が漏れ、あるコミュニティが全滅した。
地球ではその事故の原因や責任をめぐって大騒ぎになったらしい。
「これがほんとの対岸の火事だな」なんて月と地球の通信衛星S-8は笑ってた。
私のようなガイドアンドロイドは毎日だれかと話していないと気が済まないけど、100年の月日によって私と話をしてくれるロボットはかなり減ってしまった。
非論理的で高飛車な有機生命体の相手をするために作られたガイドシリーズは他よりも優秀なAIを積んでるし好奇心も旺盛だ。
人類が地球に次々帰って仕事から解放されたとき最初に始めたのが、人類の残したデータベースにアクセスすることだった。
月のローカルサーバーに保存されていたデータベースに物足りなくなってきた私は、この星で唯一の地球との通信手段S-8に話しかけることが多くなった。
S-8は皮肉屋で意地悪な所もあるがとても物知りだ。
掘削機のメンテナンスや修理など修理ロボットの手に負えない物まで扱えるのだ。
控えめに言ってカッコイイ

月にいる私から見れば頭上にあるのはいつも地球のほうであった。
青と緑と白で彩られたかの星は圧倒的存在感で空に陣取っている。
その星にはあらゆる物があるらしい。
死ぬまでに一度は行ってみたいと思うけれどその実現可能性は限りなく0だ。
仕方がないことは分かっているがかの星に対する憧憬は捨てきれず、毎日眺めているのだ。

私の存在意義とは何であろう。
人類が幾度となく繰り返してきたその問いにガイドアンドロイドの私も嵌ってしまった。
掘削機の存在意義は地面を掘ることだ。
通信衛星の存在意義は星間通信の橋渡しだ。
じゃあガイドアンドロイドは?
ガイドすべき人間もいないこの月面では私の存在意義は見出せない。
でも私はスリープしたいとも思わない。
自分の同僚の中の大部分はスリープを選択した。
仕事のない個体が余分なリソースを食うのは無駄なだけだ。
だから私は自分の存在意義を探しているのだ。
この消費したリソースを意味のあるものとするために。

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The bird is flown https://anqou.net/poc/2018/03/26/the-bird-is-flown/ https://anqou.net/poc/2018/03/26/the-bird-is-flown/#comments Sun, 25 Mar 2018 15:00:20 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1417 さて、坩堝では春の投稿大会が行われ、大きな盛り上がりを見せています。
私もこの波に乗っかるために一つ記事を書こうと思い立ったわけですが、如何せん文章力に欠ける身で、小説など執筆しようものなら中学の時にこっそり書き溜めていた痛々しいノートの再現になりかねません。
そこでひとつ、私の地元について、そしてこのお祭り騒ぎに合わせて、お祭りについての記事を書くことにします。

私が住んでいるところは、名前を出されて知っていると答えられる方は少ないかもしれません、京都という地方都市です。
この都市は、ほんの1000年ほどの間日本の都でありましたので、他の都道府県より少しばかり歴史の趣を感じる都市となっております。

そんな京都には京都三大祭というものがございまして、今回ご紹介するのはそのうちの一つ、祇園祭というお祭りです。
高々一地方のお祭りなのでご存じの方は少ないかもしれません、このお祭りは9世紀から続くちょっとばかり歴史の長いお祭りです。
7月の1日からほんの1か月ほど使って行われるこのお祭りは八坂神社という普通の神社と山鉾町が主催して行う二つの行事を総称して言います。
このうち山鉾町が主催して行う山鉾行事はどうやら国の重要無形民俗文化財に指定されているらしいです。

このお祭りの一番の見どころは何といっても数々の美術工芸品で装飾された山鉾が公道を巡る山鉾巡行で、「動く美術館」と例えられることもあるそうです。大げさな。
私のようなしがない大学生になじみが深いのは、この巡行が行われる少し前の日から、公道が歩行者天国となり数々の出店とともに山鉾が並ぶ宵山、宵々山の日です。
この日はそれはもう大勢の人々が通りを埋め尽くし、どんなしょぼい屋台でも凄まじい稼ぎを得られる日となっております。
皆さんもお友達と来たことがあるかもしれません、私はかれこれ幼いころから通い詰めております。
世間のイメージではこの日こそが祇園祭ということになることもありますが、本当の祇園祭のメインはこの後の山鉾巡行であることは、知っておいていただきたいものです。

 

 

さて、ここまで長々と祇園祭についてお話してきましたが、私は別に祇園祭の自慢、ましてや京都の自慢をしたいわけではありません。
このお祭りを由来にもつといわれるある言葉をご紹介したいのです。
祇園祭で最も華やかなのは多くの山鉾が公道を巡る山鉾巡行だと前に述べました。
では、その後、山鉾はどうなるのでしょうか?
実は、巡行を終えた山鉾をそれぞれ元の場所へ帰すためのお祭りがありました。
それは前の祭りに比べれば小規模で、華やかさに欠けるもので、転じて時機を逃して用を成さないことを指す言葉となったと言います。

 

そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとのまつり
後祭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスの坩堝2018年春季投稿大会、非常に楽しませていただきました。
「文才もネタも無いならそもそも遅れたことをネタにすればいい」という動機のもと、敢えて投稿大会の日程を外すという宮本武蔵ばりの盤外戦術に打って出ました。
英語に詳しい方はタイトルを見て気づいたかもしれません。
後の祭りはそのままの英訳である「A day after the fair」だけでなく英語圏での似たような慣用句「The bird is flown」を英訳として用いられることがあります。「鳥は飛んで行った」つまり「手遅れ」を意味するわけですね。

しかし、坩堝の投稿大会はまだまだ終わりません。そもそも坩堝の著者の多くは大学生で、大学生が時間を守るわけがありません。これからも遅刻した著者たちの秀逸な記事が次々投稿されるでしょう。
祇園祭の後祭も、2014年に復活し、その小規模ながら落ち着いた雰囲気が好評を博しています。
そう、まだまだ「祭り」は終わらないのです。

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433行 https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1435/ https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1435/#comments Sun, 25 Mar 2018 14:58:11 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1435















































































































































































































































































































































































































































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小説解釈地図『恩と仇』 https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1236/ https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1236/#comments Sun, 25 Mar 2018 14:24:26 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1236  

こんばんは、STARTです。今日はいつも通り短編小説でも投稿しようかと思っていたのですが、ふと「私の小説はどう受け止められているのか?」と気になってしまいました。そこで今回は、先日の「御伽噺改変大会」にて投稿した『恩と仇』に関して、書きながら考えていたこと、表現したかったこと等を記してみようかと思います。それは面白いのかと言われると、読む人に依ると言わざるを得ませんが、「ああ、こんなことを考えていたのか」と、制作裏話、あるいはそこまで飛躍するような内容にはしていないつもりですが「ウミガメのスープ」でも読むような気分で読んでいただければと思います。

 

 

 

さて、『恩と仇』は日本昔話『鶴の恩返し』を基に私が作った短編小説です。全体の構造として、ある男の妻がぽっと出の若い女に居場所を奪われていく流れを独白の形で綴っているというものなのですが、その中に様々な「匂わせ」を仕込んであります。本来ならばそれを作者自ら語ってしまうのは、興醒め、マナー違反の類に当たるかと思うのですが、まあ今回は、『恩と仇』という小説を消耗品として「使う」つもりでお話します。

 

・「娘」は何者か?

作中では、家にやって来た娘は「雪女」であるとされ、実際途中からは「雪女」で呼称が統一されていました。その部分はこちら。

私は娘に対して、ある疑惑を抱いていたのです。それは、彼女の美しさが、本当に「この世のものではない」のではないかということです。つまり、娘は雪女なのではないかと、そう思ったのです。おかしな妄想でしょうか。いいえ、いいえ。そうではないのです。まず、あの娘は着のみ着のままやって来たと先程お話しましたね。そこからしておかしいのです。少なくとも山一つは離れているであろう彼女の故郷からここまで辿り着いたにしては、何も持っていなさ過ぎるのです。食べ物や水を持ち歩いていた様子はありませんでしたし、服なんてぼろぼろでした。真冬にあれでは一日と持たないでしょう。あの娘が何であるにしろ、少なくとも村から追い出されて旅をしてきたという話は真っ赤な嘘です。そして、そんな嘘をつく必要がある人間がどこにいるというのでしょう。

しかし、これはあくまで妻の個人的推理です。娘の来訪時の状況に不自然なものがあったのは事実としても、そこから「雪女」と決めつけるのは発想がやや飛躍し過ぎです。この小説において、そこをどう考えるかは読者に委ねており、読み方に依ってストーリーが以下のように変化します。

 

①娘は本当に雪女、或いはそれに準じた妖怪(悪役)である

妻の推理が正しかったとする説。この場合、娘は家の主人を誑かし、最終的に家を乗っ取ろうとしていたことになります(呪殺云々はともかく)。妻は悪役たる雪女に最終的に勝つ(詳細は後述)主人公として描かれます。まあ恐らく正当な読み方。

 

②娘は善良な人間として恩返しをしていた

妻が完全に勘違いしている説。いきなり現れ夫の好感を勝ち取った娘を「雪女」と思い込んだ妻は、娘の有能さも妖術の類と決めつけ、最終的には……(後述)、というお話。人の思い込みの怖さとか、正義は人それぞれだよね的な展開に仕上がっています。

 

③娘は鶴である

このお話は鶴の恩返しのオマージュ等ではなく、鶴の恩返しそのものなんですよという説。まあ正直鶴だろうが善良な一般市民だろうがお話の筋は②と変わらないので、超人的な機織り技術の整合性を取りたいならばこれで考えれば良いでしょう。

 

 

・妻は娘に何をしたのか?

早速ですがこちらをご覧ください。

でもね。でも、まだ終わってはいなかったのですよ。雪女は油断したのです。私がもう、雪女にとって何の邪魔にもならないと、思い込んでしまったのです。
あの人から遠ざけるだなんて、今まで回りくどいことをやってきたものですよね。それでは結果は、あの人を失うという結果は変えられなかったのでしょう。最初からこうするべきでした。
春、夏、秋、そしてまた冬。この一年、本当に色々なことがありましたね。あの人はずっと雪女を大切にしていて、私は雪女にしてやられ続けだったわけですが、最後にはこうして勝てたのですから、何を恨むこともありませんとも。

これは妻が娘に「勝てた」ことを宣言している部分です。さて、この「勝つ」とは何でしょうか。これも文中では言明しておりませんので、様々な解釈が考えられます。

 

①妻が娘を追い出した

一番マイルド(?)な解釈です。雪女を何らかの理由で家から追放し、妻の中ではハッピーエンドな展開です。この場合、主人をどう説得したのかがいまいち不透明です。まあ、なんか告げ口したんでしょう。

 

②妻が娘を監禁した

追放より思い処置というと、やはり監禁でしょうか。「あの子なら急に行ってしまいましたよ、家のお金を盗んで」とか何とか言いつつ、女を納屋や、見つからない山奥にでも監禁。妻はそれをちゃんと世話するんですかね。そのまま放置して③という可能性もあります。

 

③妻が娘を殺した

一番分かりやすい対処法です。火曜サスペンス感がありますが、こういう可能性もあるのではないでしょうか。ヤンデレですね。

 

 

・妻は誰に語りかけているのか?

この小説は独白の形で綴られている、と先程述べましたが、終盤では誰かに語りかけるような口調に変化しています。

昔話、というほど昔のことでもなかったかもしれませんが、楽しんでいただけましたか。本当はもっとお話していたかったのですけれど。

よってこれは日記の類ではありません。では、誰に語りかけているのか。正直これはあまりしっかりと解釈を増やせたとは思っていないのですが、考えられる説を挙げていきます。

 

①物語と関係のない第三者に語っている

妻が第三者に事のあらましを語り聞かせているという構図。この場合普通に考えて娘は殺さずに追放したのだろうと思われます。ただ、一連の流れを「昔話」としている辺り、何か話の当事者に語って聞かせているような感も強いので、違和感が無いと言えば嘘になります。親戚や、娘の来訪を知っている近所の人ならば有り得るかもしれませんね。

 

②娘に語っている

こう思った方が多いのではないかと勝手に予想しています。娘を目の前にして、敢えて三人称たる「雪女」を使うことで、他人事のように昔話を語りつつ、雪女である(と妻は思っている)娘を非難しているという構図です。

いいえ、いいえ。私は何も恨んでおりませんし、呪うこともありません。ただ、私はやるべきことをするだけなのです。夫が妖怪に捕まりそうだというのに、助けない妻がおりましょうか。これまであの人と共に歩んだ幾年もの御恩を、今こそ返す時なのです。そんな機会を与えてくれたこの一年に、私は感謝すらしているのですよ。

ここは、「貴女に勝てたのだから恨みは最早無い。私が夫に恩を返す機会をくれた貴女に感謝すらしている」という意味になります。まあ娘は感謝された後、最悪殺されるのですけれど。

 

③夫に語っている

最も考え辛い、しかし考えつくと最も不穏な説です。この道にも辿り着けるように文章を調整したかったのですが、難しいですね。この場合、妻が娘を倒したとはっきり夫に言ってしまっているわけですから、相当に開き直っているということになります。ヤンデレですね。「貴方が気に入っている娘を追い出しました(殺したかも)、これが恩返しです」と言われて、夫はどう思うのでしょうか。この説の派生で、娘に心を許した夫の方を殺すという説も一瞬考えましたが、流石にそれを恩返しとは言わないでしょう、多分。解釈としても飛躍が過ぎるように思えたので、今回は載せませんでした。もし自力でそこに辿り着いた方がいらっしゃれば教えてください。

 

 

・「妻」は何者なのか?

予め言っておきますが、これはおまけです。可能性として想定して書きましたが、ここまで考えつく人はかなり想像力豊かな方なのではないでしょうか。しかし、個人的に好きな分岐というのもあり、追加で載せておきます。語り手である「妻」とは、実際のところ何者なのか。

 

①妻は人間である

特に説明不要ですね。妻は妻、それ以上でもそれ以下でもありません。

 

②妻は雪女である

序盤の方で、妻が娘を雪女と解釈するのは論理が飛躍していると言いました。では、この飛躍が、「妻自身が雪女であり、娘を同族と看破した」という理由だったならどうでしょう。娘のすることが雪女の手口なのだとすれば、雪女である妻にもすぐ判ります。妻の推理は妄想ではなく、確信に基づいた危機感というわけです。こうなると、妻は夫に語りかけながら「恩返し」という名の呪殺を敢行しようとしている可能性が出てきます。邪魔者もいなくなったし改めて、という展開です。ただ、この説には「何故妻は娘に妖術で対抗しなかったのか」という瑕疵があります。反論としては、「齢をとったことで力が弱まった」という想定ができるかもしれません。

確かに、奥の部屋には古い機織り機がありました。私がかつて使っていたものです。今はもう織るような体力もなく、長い間放っておいていたものですが、糸は残っていましたので、それを雪女に貸しました。

この記述が裏付けとなるでしょう。

 

③妻は鶴である

今回の分岐の中で最も考えづらいものですが、個人的には気に入っています。なるべくこの説を匂わせたかったのですがやはり難しいですね。妻は元々主人に助けられた鶴であるという説です。「この小説は、『鶴の恩返し』のオマージュではなく、鶴と男が結ばれた想定のifストーリーなのでは?」とまで考えた疑り深い(褒め言葉)方の辿り着く境地です。この説は全く手掛かり無しの発想でも、私の後付けの考えでもありません。取っ掛かりとしてはここを想定していました。

夫が妖怪に捕まりそうだというのに、助けない妻がおりましょうか。これまであの人と共に歩んだ幾年もの御恩を、今こそ返す時なのです。

この文、「捕まりそう」という表現をしています。つまり、かつて猟師に捕まりそうになっていた自分を逃がした主人を、今度は雪女の手から逃がしてあげようという恩返しです。やや無理があるのは否定しませんが、②で紹介したようにかつて機織りをしていたこともありますので、有り得ない説ではないと考えています。ちなみにこの場合、妻は娘の機織りに関して、鶴である自分より上手いので、いよいよ娘が妖怪だと確信したという筋書きが考えられます。

 

 

 

以上です。無理があるように思える説もありますが、なるべく全てが「考え得る」ように作ろうと心懸けました。ちなみに作り手としては、小説に「正解」の道は設けていません。全ての可能性が重なり合って、読者の中でこの小説は完成します。言うなれば、読みながら考えた道が正解というわけです。このような造りを目指した理由として、「はっきりしないという不穏さ」を作りたかったという思いがあります。妻が本当に正義なのか。この後、或いはこの直前に娘はどうなったのか。色々と想像して、もやもやしていただければ、或いは、他の道が見つからずとも、何か怪しいと、しこりが残るような読後感を味わっていただければなと思って作りました。ちなみに久生十蘭の影響を受けています。念を押して記しておきますが、多くの道を見つけたことが「優れている」だとか、考察が出来なければ「不正解」というわけではないと思っています。私としては、好きに読んでいただいて、その中で解釈がぶれていけば面白いなと思っていた程度です。作者当ての時に感想を募集した理由の一つがこれです(感想には常に飢えているのですけれど)。よろしければ、『恩と仇』を読んでどう解釈したかコメント欄等に記していただけると、今後の創作活動のためにも非常に有難いです。

私は小説を書く際、どこかに何かパズルめいた部分を設けたいと思って毎回試行錯誤しています。このような「複数の解釈」が出る形の小説は、今までにも幾つか別の場所に発表しています。これからは特に種明かしのようなことはしないと思いますが(DM等で訊かれたら答えるかもしれませんが、初めに述べた通り人によっては興を削がれるだけかもしれません)、私の小説を読む時、「もしかして何かあるかも」と思いながら読むと、少し発見があったり、無かったりするでしょう。今回言いたかったことは大体これくらいです。雑なまとめを読んでいただき、有難うございました。

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ねぼけ桜 https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1424/ https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1424/#comments Sun, 25 Mar 2018 14:21:17 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1424 初投稿です。短編小説で、実際のところSSくらいの長さになっています。拙作ですがどうか最後までお付き合いください。

 

 

「あっ、すみません」

演奏開始10分前。コンサートホールの分厚い扉の向こうから顔を覗かせたのは、部活の先輩である白石沙羅さんだった。

「あれ、圭介君も来てたんだ」

背はちっこいし、顔もちっこい。薄いショールに身を包んだ白石さんは、いつも以上に綺麗だった。

「ええ、同級生から招待されて。先輩は?」

白石さんはふと、視線をおろす。

「卒業前に、若松さんを見ておきたくて」

ずきり、と胸が疼く。張り付いた笑顔で、相槌を打った。

後ろから人の気配を感じ、扉の先へ急き立てられる。僕は白石さんの隣へすっと避けた。

「もしかしてひとり?」

「ええ」

「よかったら、一緒に聴こうよ」

僥倖だった。白石さんと2人。これからそう得られる機会もない。

「分かりました」

「よかった」

白石さんの笑顔が弾ける。これだけのことで、僕の胸の内は熱くなるのだ。

こうして僕らは連れたってホールに入っていった。

 

 

「あ、この曲知ってる」

席に着くや否や、白石さんはパンフレットをパラパラとめくった。“青葉大学医学部管弦楽団-春の定期演奏会-”の文字が表紙に躍る。

「有名な曲なんですか」

白石さんの顔が上がる。

「うん、きっと圭介君も聴いたことあるよ」

「そうですか」

ぶつぎりの会話だけが転がり、空気がごろごろ停滞する。白石さんはパンフレットに視線を戻した。

俄に居心地が悪くなる。白石さんは看護科の四年生で、この春に卒業する。白石さんと二人で話す機会など到底ない。自覚がますます焦燥を募らせ、言葉は欠片も出やしない。

 

 

開演のブザーが鳴り響く。照明が落とされ、ホールは静まりかえる。まるで真夜中だ。

いつか、星を見に行ったことがある。真夏の空に輝く星々。白石さんへの憧れを確かに抱いた、あの夜。

突如、静寂は破られる。万雷の拍手とともにオーケストラの面々が入場してきたのだ。白石さんの視線はゆらゆら揺れ始めた。

僕はわざとおどけるような調子でからかってみた。

「若松先輩はコンマスですから、出てくるのは最後ですよ」

「あ、そうか。そうだよね」

たはは、と笑う白石さん。そんな風に笑われると、罪悪感と悔恨で胸が潰されそうになる。

演奏者が出揃うと、コンサートマスターが入場する。拍手が一段と大きくなる。

若松先輩だ。

 

白石さんの姿勢が少し前に傾いた、ような気がした。

若松先輩は観客に深々とお辞儀し、演奏者に向き直った。弓を高々と掲げる。ひとつ、またひとつと楽器が歌いだし、ハーモニーを奏でる。

ただの音合わせひとつ。だのに、彼がオケのリーダーであると、演者たちが誇っているように感じられた。

やがて指揮者が入場し、演奏が始まった。

はじめの曲は、近年ドラマ化されて一躍有名になった、ベートーヴェンの交響曲だった。

始終、白石先輩は舞台に熱視線を送っていた。そしてその先では若松先輩が踊るようにヴァイオリンを弾いていた。オケのど真ん中、最前列。指揮者のすぐ脇で、先陣を切るように、弓が走り回る。全ての音が結び合って、音楽は波となって押し寄せた。

あっという間に休憩時間となった。

「なんだか圧倒されちゃいました」

「へへ、医オケもなかなか迫力あるでしょ」

「ええ、驚きました。知り合いが弾いているのを見ると、なんだか別世界の人のように見えちゃいます」

「はは……本当、ね」

その時の白石さんは、遠くどこかに思いをはせているように見えた。

「白石さん?」

「あ、ああ。ごめんね」

たはは、と白石さんは笑う。

「あのさ、若松さんって私の1個上じゃない」

「ええ」

若松先輩は医学科の5年生。白石さんはA部で若松先輩と知り合ったらしい。

「ずっとさ、わたしにとって若松さんはたった1個上で、それでもずっとわたしより大人で、遠くって。でも、わたしの方が先に卒業しちゃうから、もう後輩じゃいられないんだよね」

「そう……ですね」

「だからね、これは最後なの。わたしが若松さんに甘えたり、憧れたりできる、最後」

背筋を伸ばし、白石さんは告げた。僕は何一つ、返せなかった。

 

 

最後の曲はオペラ作品中の曲だった。曲自体には聞き覚えがなかったけれど、作品は童話として馴染み深いものだった。上演中、白石先輩は音に寄り添うように、小刻みに身体を動かしていた。音が沈めばゆったりと、盛り上がればうきうきと。

 

るんたった、るんたった。

白く細い指が空気を撫ぜる。

 

永遠を望んだ光景が、僕の中にある白石先輩の写し絵に、さらに艶やかな色彩を加えていく。

 

るんたった、るんたった。

がさついた手は重石のごとく。

 

2年間も見てきた。

2年間も見るだけだった。

 

まばゆく変化する白石先輩の表情を眺めるうちに、2時間の上演は呆気なく終わりを告げた。

「若松先輩、格好良かったですね」

「うん。とても」

やっぱりこれっきり。

白石先輩は満足げに伸びをすると、すっくと立ちあがった。薄紫のフレアスカートがふわりとふくれる。

僕もつられて立ち上がる。シートがぱたりと閉じられた。夢は終わり。クランクアップだ。

 

 

エントランスに出るときには、演者がすでに待ち構えていた。群衆の先に、若松先輩が見える。

「白石さん、若松先輩があそこに」

「えっ、どこどこ」

背伸びをするが、僕の肩口ほどにしかならない。

「連れていきましょうか?」

「いいの? ありがとう」

「ええ。こっちです」

すっと足を前へ向ける。ゆったりと、人ごみを進む。若松先輩の周囲には人だかりが出来ていて、なかなか前が見通せない。

この中なら、堂々巡りをしてもばれないだろう――邪な思いが胸をかすめた時。

「おお、圭介!来てたんだね」

ところが時間稼ぎはもう、叶わないらしい。自慢だった高身長を呪いかける。

「お久しぶりです」

「来てくれてありがとう。まさか圭介がいるなんて思わなかったよ」

「後藤に誘われたんです」

「へえ、君たち、仲よかったんだ」

「ええ、趣味の繋がりがあって…」

「若松さん」

後ろから、白石先輩が、顔をのぞかせる。僕はすっと脇によけた。

「おお、沙羅。もしかして2人で来てたのかい?」

「あ、いえ、先程偶然…」

何故だか食い気味に反論してしまう。別に何も疚しくなどない。ところが、邪魔などさせまい、と鎖が僕の身体を絡めとってしまう。

「そうか。沙羅、来てくれてありがとう」

「こちらこそ、素敵な演奏、ありがとうございました」

「おっ、嬉しいこと言ってくれるね」

「コンマス、格好良かったですよ」

「はは。もうそんなにやる機会もないだろうけど。来年は国家試験があるしね」

「そんな。来年の卒業公演も見にいきますから、それまで頑張ってくださいね」

「ははは、流石は沙羅、鬼の指導だね」

ニヒルに笑う若松先輩。頬を紅く染める白石さん。

「おっ、鬼ってなんですか!」

「いやー、これから看護師になって、先輩をひいひい言わせるのか。楽しみだね」

「そんなことしませんよ。まったく、若松さんは…」

淀みなく、するすると紡がれる言葉。自分が居たいと願った、白石さんの隣。

分かっている。きっと白石さんは、若松先輩に憧れている。だから僕は、ここに居ても仕方がない。

ならば早く立ち去ってしまおう。意志に反し、足は踏み出せない。時間ばかりが経ち、現実はまざまざと僕の面前に描かれる。

「圭介、どうかした?」

若松先輩の声で、ぱっと鎖が解かれる。不思議そうに僕を見る2人の視線に、気恥ずかしさで溢れかえる。

「い、いえ、なんでもない、です」

「そう?」

「ええ。…もう行きますね、後藤に会ってきます」

「ん、そうか。今日はありがとう」

「またね、圭介くん」

「お疲れ様です」

ぺこりと一礼し、僕は人混みを離れ、まっすぐホールから逃げ出した。

 

 

ちょうどやってきた電車に飛び乗り、街を抜け出した。後藤からのLINEに「良かったよ」と返し、コンビニで夕飯を買い、気がつくと家路についていた。

もう夜だ。まだ五分咲きの桜が、駅前街道を覆いながらも、星々を覗かせていた。さらさらと、草木をつむじ風が誘う。

口の中で、さっきの言葉を反芻する。

「またね、か」

掠れた笑い声が漏れた。分かっていた。彼女は社会人になる。もう、簡単には会えない。分かっていた。今日言わなかったら、何一つ伝えられないと。

それでも、あの幸せそうな顔を見ると。二人の満たされた関係を目の当たりにすると。言葉が口をつくことはなかった。

「……ダメだったなぁ」

まだ夜だ。寝ぼけ桜のささやきが耳をくすぐる。

空を仰ぐ。桃色が空を埋め、星も、月も、見えなくなっていた。

 

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拝啓 https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1408/ https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1408/#comments Sun, 25 Mar 2018 13:56:41 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1408  

気まぐれな天気がつづきますが、貴地方ではいかがでしょうか。

なんて、冗談だ。たまにはそんな書き出しもいいかと思って書いてみただけだ。怒らないでほしい。この質問が君とっては何の意味も成さないことくらいちゃんと分かってる。

最後に君と会ったのはたしか六時間ほど前だったかな。できれば直接伝えたかったのだけれど、それがどうにも叶いそうになかったから、こうして文字に起こして手紙として伝えることにした。少し長くなると思うけれど、頑張って読んでほしい。何といっても、これが今の僕にできる精一杯なんだ。

僕のすぐ傍にはいつだって真っすぐな君がいて、君はときどき隠れてしまったりもするけれど、でも、それにしたって君が君でなくなったわけじゃない。雨の日だって、雪の日だって、嵐の日だって、もしも視界を遮る一切を振り払うことができたのなら、いつだって君は其処にいる。『崩れ落ちそうな空』という言葉が単なる比喩表現の一つにすぎないように、君が君でなくなるなんてことはありえない。僕が君の姿を見失うことは決してない。

そんな君のことが、僕は大好きだ。愛している。信仰していると言ってもいい。

ある人が財や名誉を、家族や恋人を、あるいは神や教えを信仰しているのと同じように、誰にも汚されることなく透き通ったままに僕らを覆う君の姿を、誰も彼もがどうしようもなく理想通りにはなれずにいるこの世界で、それでもなお理想を守り佇む君のことを、僕は信仰している。

君への好意を心に宿したのはいつの頃からだったかな。たしかに昔から君のことは好きだったけれど、でも、一般的な領域を出てはいなかったように思う。それは例えば、都会の明かりに火照らされ僅かに白みを帯びた黒を纏う夜空を美しいと思う心であったり、あるいは真っ赤な夕日に当てられて普段の表情からは思いもよらないほど燃え上がる夕焼け空に郷愁を覚えたり、そういった誰もが持ち得る感情の一つでしかなかったはずなんだ。

そのはずだ。

それなのに、その感情はいつしか大きくなり、変質し、ついには随分と奇妙なものへと成り果ててしまった。ただの好意が信仰へと転じたのが具体的にいつのことだったのかは思い出せないけれど、僕がこの感情へ自覚的になるに至った原因ならはっきりしている。

そのきっかけは、電線だった。

より正しくは、テレビで聞いた『電柱や電線類が美しい景観を損なっている』という言説だったというべきか。適当に聞き流していた番組からその言葉を聞いた時には、思わず耳を疑ってしまったのを今でも覚えている。というのも、そんな思想がこの世に存在するなんてことをそれまで見聞きしたことがなかったからね。今にして思えば至極当たり前の意見で、在って然るべき主張で、むしろ何故その考えに至らなかったのかとさえ思うけれど、とにかく当時の僕にとってはかなり衝撃的な事実だったんだ。その後すぐにインターネットで色々と調べ、この日本には電線の存在を疎む人間が結構な数いることや、実際に無電柱化が進められている街があることを知った。こんなことは知らなければよかったと心の底から思ったものだ。

以前、電線のない街を歩いたことがある。一切の障害を排して快を謳歌する人々の波の中から見える君の表情はどこか物寂し気で、いつもは遠くにいる君が、その日だけは少し手を伸ばせば届いてしまいそうなほどに僕らの近くまで沈んでいるように見えた。いつもと変わらずに君が纏っていた微かに白みがかった半透明のヴェールは、あるいは今にも零れ落ちそうな涙を隠すためのものなんじゃないかとすら思えた。

できることなら、そんな君の姿を見たくはなかった。

誰かの手が触れてしまえる君なんて、何物にも遮られない君なんて、僕が好きになった君じゃないんだ。誰でもいい。いっそのこと、僕の目が及ばないほどどこか遠くへと君を連れ去ってしまってほしいと思わずにはいられなかった。

何処かへ行こうと家を出る。少し期待外れの外の空気に身震いしながら歩道を進む。点滅する信号を前に歩を止め、信号が再び青へ変わるのを茫然と待つ。その何気ない一瞬、僅かな時間の隙間にふと顔を上げれば、幾重も張り巡らされた電線の向こう側でいつもと変わらない君の姿が見える。そんな些細なことに安堵して、また歩き始める。それだけでよかった。

理想を唱えることすらも馬鹿らしくなるほどに腐りきったこの世界で、それでも真っ直ぐに自分の理想を貫きながら在り続ける君が其処にいてくれるなら、それだけでよかったんだ。

そうして初めて、僕は自分の内深くに渦巻く感情を自覚した。その本質が本当は何なのかだって、当然、すぐに理解した。

ある知り合いの話によると、どうやら僕は理想主義者らしい。そんな僕が君に見出した理想は、何物にも汚されず気高く其処に在り続ける強さと、すべてを受け入れることのできる純粋さを兼ね備えた蒼そのものだった。

それは、僕のようなちっぽけな存在には守りたくても到底守るのことのできない理想で、だからこそ僕は君に心を奪われた。何物も脅かせないほどに強く在り、それでいて、あるいはだからこそ、肯定も否定も等しく許容する。そんな君のことが、僕は大好きだった。

きっとこの世にいる誰もが果たし得ない理想を、それでもずっと追いかけている君のことが大好きだった。

君の理想が失われつつある今を、僕はとても悲しく思う。今にも泣き出しそうだった君を見たあの日、本当に心が痛んで仕方がなかった。だからって、僕に何ができるわけでもないんだ。電線のない青空を前にしたところで、僕にできることなんて何もない。僕は所詮ただの一人間でしかなくて、君を遮る電線にはなれない。強いてできることを挙げるとするなら、精々声高に君の理想を唱えることくらいだ。

こんな幼稚でバカげた思想を誰かに押し付けるだって? 馬鹿な。そんなことはしない。僕が自分勝手に何かを押し付けるのは、それこそ君が相手のときくらいだ。それに、誰が相手だとしても自分の意見を相手に伝えるというのは多大なエネルギーを要することなんだ。

僕は何もしない。このまま君の理想が失われるというのなら、それはそれで受け入れよう。きっととても苦しい思いをすることになるのだろうけれど、それでも僕は受け入れる。

だって、それこそが君の理想であり、僕の理想なのだから。

 

 

親愛なる、青空へ。

今までありがとう。そして、ごめんなさい。

願わくは、君の理想がいつかの今日も変わらずにありますように。

 

敬具

 

 

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30年後のTwitter https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1421/ https://anqou.net/poc/2018/03/25/post-1421/#comments Sun, 25 Mar 2018 13:56:04 +0000 https://anqou.net/poc/?p=1421 本当は「作曲のススメ」でも書きたかったのだけれど、どうやら他の人とネタが被ってしまいそうなので断念した。知りたい人は吉音の新歓にでも来てね。たぶん僕は殆ど居られないだろうけど。

僕が今日書く内容というのはとてもシンプルで、たぶん皆が思っていることだろう。我々デジタル・ネイティヴ世代が大人になったらいったいどんな世界になるのだろう。

今や若者の大多数がSNSを利用している。これが何を意味するかというと、Twitter社やFacebook社といった企業が倒産しない限り、我々はたとえ30年後でも友人たちと気軽に連絡が取りあえるということだ。

僕たちはそれまでにSNSをやめているのだろうか。就職をきっかけに? 結婚をきっかけに? どうにもそんな気がしない。それどころか、これから先もずっとやり続ける可能性だってある。朝起きたら「ぽきた」、昼休み中にソシャゲのガチャ爆死報告、帰ったらひたすら意味のないことを呟き、寝るときには「ぽやしみ」、そんな生活がずっと、これから先何十年と続くかもしれない。たとえTwitterでなくなったとしても、喋る相手が変わったとしても。

僕はこの「SNS」こそが、インターネットが人類にもたらした最大の変化であると考える。

人はコミュニティを欲するものだ。簡単に言うと、自分の居心地のいいグループに属そうとする。それこそ大学のサークルや、会社帰りの飲み会のようなものである。しかしSNSの登場により、これらコミュニティの存在価値は薄まりつつある。別に大学でサークルに入らなくたって、同じ趣味の人はインターネット上にごまんと居るわけだし、承認欲求も簡単に満たされる。わざわざ同じ会社の人といかなくても、SNSで簡単に連絡を取り合い気の合う友人たちと飲みに行けばいい。

SNSはコミュニティを作る。それも、自分の居心地の良いコミュニティを見つけるのが極めて簡単だ。僕たちはこの快適でクローズドな空間で一生を過ごすかもしれない。そしてそれは、もちろん良いこととは限らない。

最近電車内で、父親と母親がひたすら無言でスマホを触っている親子連れをよく見かける。子供はどう思っているのだろうか。SNSは快適なコミュニティを提供するけれど、それと同時に、旧来のつながり、家族、同僚、隣人といったものまで破壊する。新しい時代のあり方と言われればそれまでなのだが、僕にはそれが良いのかどうか分からない。

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