せるふいんとろだくしょん

さざ波のような静かなざわめきの中、あなたは無表情で机の前に座っていた。
落ち着いていて、冷静で、物静かに。周りのことは一切視界にないような風でただ座っていた。
今日は入学の日。あなたは新入生。周りにはぎこちない挨拶を交わす人。緊張しきって書類を読むことしかできない人。それとは逆にフレンドリーに会話を楽しむ人。人。人。人。
波に乗るせよ飲まれるにせよ各々に新しい環境に対する何かしらの反応を見せているらしかった。
そのどれでもないあなたは奇異に映ったかもしれない。順応しようとしている様子はない。かといって拒否反応を起こしているわけでもない。無を人の型に流し込んで固めたらこうなるのだろうか。
しかし実のところあなたも例に漏れぬ「人」の一人だった。
自らの中の波、それも寄せては引く大波を御しきれず必死になっているだけなのだ。
その波とはおそらく次に来るであろう「自己紹介」のこと。
入学式の時から、いや昨日の夜からそのことが頭を埋めていてボタンを掛け違えるやらカバンを忘れかけるやら大変だった。
趣味?特にない。
好きなもの?うーん…
得意なこと?論外。
項目を思いつくまではいいのだがそれにバツをつけるしかない自分が情けない。
周りに順応したいがために周りに気を配る余裕がないのが実情だった。何かないだろうか。
時を告げる実によくあるメロディーが耳を通り抜けていった。鐘の音が教室の波をすっと鎮めていく。
1分ほど遅れて担任が教室に入ってくるころにはあなたはとうに思考の海に戻っている。
出身地は当然答えられるが何の面白みもなくて話が広げられない。
年齢…ってこれはみんな一緒じゃないか。
すでに考えは海底をグルグルとさまようだけになっていた。光の届かぬ深海。
前で担任が何か音の波を発しているのが見えた、が、担任の言葉など鼓膜を震わす以上の効果はない。今度はあなたの列の先頭が立ち上がってしゃべりだす。
案の定、「自己紹介」だ。ワンパターンだな。あなたの出席番号は5。近い。波は大きく、より荒々しくなる。
他人の自己紹介を聞く余裕はなかった。他人の自己紹介を聞けば何かヒントになるかもしれないのに。
そんなことを思いつく余裕さえもない。
ガタン
あなたの目の前で空気が揺れる。もうそんなところか。
諦めかけて窓の外を一瞥した。何故か懐かしい何かが見えた。もしかしたら現実ではなかったかもしれない。
しかしそれを見た瞬間波が止まった。
「次5番の人。」
担任が呼ぶ。
「……はい。」
落ち着き払ってあなたは立ち上がった。
「私の名前は

コメント

  1. アバター nininga より:

    そこで終わるんかーーーー