小説一覧

NO IMAGE

夢、六月初旬の

 表題通り、十日ほど前に浅い眠りの中で見た夢の内容を、記憶を頼りに随所補完しながら書き起こしてみようと思う。早朝の短い二度寝で見た夢なので、寛大に表現してティザームービーくらいの尺と密度しかなく、当然導入もオチも無い。たまにオチを含んだ映画仕立て、小説仕立ての夢を見ることもあるが、大概は起きて思い返すだに支離滅裂な幕切れで、それに比べれば展開のない映像の断片の方がまだしも書き起こすに相応しいだろ...

NO IMAGE

硝子の島

 もう家に帰りましょうよ、あなた。君がそう言った。上着がないと、ここは少し寒いわ。  僕は辺りを見回して、隣に立つ君へ微笑んだつもりでいた。帰るったって、もう家の場所だって分かりゃしないだろう。あらそうね、と笑う君の桃色の声帯が、くつくつと上下に揺れる。もちろん、僕らにとってそれはひとくだりの冗談にすぎない。帰る必要だって、もうない。  透ってしまったアスファルトの道路を、氷...

NO IMAGE

壁に向かって喋ってろ(AA略)

 最近は、なにかに赦しを請うかのように本を読んでいる。  修行のように大量の本を濫読しているという意味ではない。8月初旬には専門に関してひとつの峠があったが、そこを越えて以降はむしろ以前よりも読むペースは落ちた。書くのも遅々として進まないので実際スランプなわけだが、これは8月初旬がどうこうではなく、あるいは夏が悪いのでもなく、ただこの4月から続く低空飛行の日々が、ゆっくりと私からなにかフロ...

NO IMAGE

余罪

気がつくと,僕の目の前には広大な草原が広がっていた. 「ああ!やった,成功だ!きみ,見たまえよ,この景色を!豊潤たる大地を!はははは,やった.大成功だ!」 隣で男がおおはしゃぎしている.私はこの男について何も知らないし,そもそも自分が何処にいるのかすらわかっていない.「どうしたんだ君.もっと喜びたまえよ」話しかけられても,いま,この状況を把握するのに精一杯で何も答えられない.自我が混...

NO IMAGE

テーマ「タクシー」 冒頭部

 先日、サークルの方で「タクシー」をお題に短篇小説を書きました。十数ページほどの短い小説ですが、その全文をここへ載せるのは読みやすさの面等から躊躇われましたので、冒頭部の一節のみを掲載させていただくこととします(坩堝掲載に際し一部推敲)。 ------------------------------------  ターミナルを出た人影が、早足でこちらへ近付いてくる。私は窮屈な...

NO IMAGE

晩雷

 氷川哲郎の様子がおかしい、という報せが入ったのは、面会時間が終わる間際の夕暮れ時だった。  看護師と連れ立って病室の引き戸を開ける。中では私を呼び出した張本人、哲郎の息子が待ち構えていた。 「哲郎さんに何かあったとお聞きしましたが」 「ええ、その」見た目に四十は過ぎでいるであろう哲郎の息子は、落ち着かない様子で薄くなり始めた頭を擦った。 「 仕事帰りに会いに来たんです...

NO IMAGE

影の男

 町内放送の夕焼けこやけが耳に届いたことで、初めて僕は今が夕方であることに気付いた。 一体どれほどの時間、僕はここで呆けていたのか。目の前の世界が赤く変わっていったことにすら意識が向いてなかったのだから相当のものだ。茫然自失、とは今の僕のことを言うのだろう。  ここへ来た時は砂場で遊んでいた数人の子供たちも、いつの間にか居なくなっていた。彼らが夕焼けこやけよりも前にこの児童公...

NO IMAGE

ブージャム

目の前のベンチには一人の女性が座っている。イギリスのストーンヘンジを模したモニュメントが中心にある広い公園で、普段は子供が大勢遊んでいるのだが、今日は天気も不安定であたりに人気はなかった。少し前まで、この女性のボーイフレンドらしき人物がベンチに一緒に座っていたが、今はここにはいない。 私は今、さっき目撃した驚くべき現象をこの女性に伝えたいと思っている。といっても私はもうかなりの回数それを見...

NO IMAGE

焚べる

(2018年12月22日0時改稿) 焚き火に投げ込まれた枯れ枝は、炎に当てられた途端に呆気なく燃えた。乾き切っていない枝があったのか、火は視界をぼやけさせる程の白煙を吐き続けている。顔を焦がす熱を感じて、わたしは椅子を少しだけ引いた。 「薪、もう無くなっちゃったけど」 「良いんだよ。これ以上燃やしたら、寝る前に消えなくなるから」 軍手を外してテーブル...

NO IMAGE

名無しのNemoです。いまカリフォルニアは12月14日12:38ですね。 本編とは全く関係ありません。        穴に落ちていた。 12月1日 天気:穴  ぼくは見上げてからようやくそのことに気がついた。随分と高くから音がするとは思っていたが。穴の中ではそれもうまく聞き取れない。いま思うとここは真っ暗闇だ。自らの手の輪郭さえも掴みきれないほどに。いつ落ちたのかは定かではない。...