硝子の島 2021/5/7 小説 0 START もう家に帰りましょうよ、あなた。君がそう言った。上着がないと、ここは少し寒いわ。 僕は辺りを見回して、隣に立つ君へ微笑んだつもりでいた。帰るったって、もう家の場所だって分かりゃしないだろう。あらそうね、と笑う君の桃色の声帯が、くつくつと上下に揺れる。もちろん、僕らにとってそれはひとくだりの冗談にすぎない。帰る必要だって、もうない。 透ってしまったアスファルトの道路を、氷...