初めに言っておくのだけれども、この投稿は少し特殊だ。まあ詳しいところはどこまで話していいのかも判らないので伏せるが、以下の小説は、カオスの坩堝内で開催予定のとある企画に関する、プロトタイプだ。具体例だ。叩き台だ。起爆剤だ。内容としては、私が高校時代に、ある有名な童話を基に作った短編だ。執筆当時から何の手も加えずにコピペした、成分無調整の無添加だ。ただし元々題名は無かったのでそれだけは新規だ。まあ、言うなればこの投稿は、半分内輪に向けて、半分外に向けてのものだ。企画について知っている人も知らない人も、ある高校生が書いたオマージュ小説の一つとして、軽い気持ちで読んでもらえれば幸いだ。
さあ、こんな前置きなんて小説においてはただの不純物だ。さっさと本文に移ろう、だ。
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二人の男が、城下街を歩いていた。一人は髭面で、三十代にも四十代にも見える。もう一人は細身で、成人になったばかりのような若者だった。
二人は隣国でかなり悪名高い詐欺師である。これまで幾度となく人を騙し続け、指名手配犯となっていた。そこで彼らは、この国にまでやってきて、自分達の仕事をしようとしていた。
城の近くに一軒の服屋があった。高価で質の高い服を販売している。詐欺師達は迷いなくその店に足を踏み入れた。服屋の店主は、みすぼらしい見た目の男達が入店したことにとても驚いた。詐欺師達は店員に話しかけた。
「この店に、今まで街の誰も見たことがないような服は置いていませんか」
それを聞いた店主は一度奥に引っ込み、やがて綺麗な衣装を持って戻ってきた。
「この服は一点もので、店頭にはお出ししていないものですが……何せ、この服はとっても高いんです。失礼ですが、とても貴方方には払えないような……」
詐欺師達は懐から一握りの金貨を差し出した。この国で金はとても貴重だった。服を買うには十分過ぎる量だ。
「一着じゃ足りません。違う服でいいですから、もう一着用意してください」
その日、服屋は一か月分の売り上げを一度に手にした。
城下街があるのならば、そこには城がある。そして城があるのならば、そこには王様がいる。この国の王様は、何よりも服を着ることが好きだった。お抱えの機織り師に服を作らせては、衣装部屋で着て楽しんでいた。部屋は、常に新しい服で満たされていた。
ある日、王様は一つの噂を耳にした。最近、隣の国から凄腕の機織り師がやってきたというものだ。気になった王様は、噂の主を召喚することとした。
すぐに、二人の男が謁見の間に通された。一人は髭面で、三十代にも四十代にも見える。もう一人はかなり若く、そして痩せていた。
王様は、二人の着ている綺麗な服を見て驚いた。
「その服は、どこで手に入れたのだ」
二人の男はすぐに口を揃えて、
「私達が作りました」
と言った。それから、
「しかし、これは失敗作なのです。売り物にできる仕上がりではないので、自分達で着ているのです」
とも言った。王様はこれを聞いて何度か頷き、次にこう問うた。
「お前達は素晴らしい衣装を作ると聞いた。その服よりももっと素晴らしい服が、お前達には作れるのか」
男達はこの問いにもすぐに答えた。
「作れますとも。私どもは、お召し物がお好きな王様のことを聞き、こうやって隣の国からやってきました。私どもが作った服ならば、きっと王様も満足なさることでしょう」
「成程。して、お前達はどんな服を作るのだ」
男達は待ってましたと言わんばかりに質問に答えた。
「はい。私どもが作ろうとしているのは、羽のように軽く、夢のように美しく、そして、馬鹿には見えない服です」
「馬鹿には見えない服?」
「ええ、そうですとも。私どもがこの度作る服は、馬鹿な者には透明に見えるのです。まあ、王様には関係のない話でしょうが」
話を聞いて興味を示した王様は、実際に彼らに城内で服を作らせることにした。二人の男は王様に膨大な量の報酬を要望したが、それにも快く応えた。
城内のとある一室を借りた二人の男は、早速機織り器を使って服を作り出した。しかし機織り器に糸はかけられておらず、当然ながら布は少しも織られていない。彼らは、服を作るふりをしていた。
彼らの「作業」は、夜通し続いた。
数日後。遂に服が完成したと聞いて、王は再び二人の男を謁見の間に呼んだ。二人はそれぞれ、服を大事そうに抱える振りをしながらやって来た。
「王様、遂に服が完成しました。御覧ください、この模様を」
王様は服があるであろう辺りを見て、とても満足そうに頷きました。
「見事な服だ。いい仕事をしてくれたな。実は、お前達の作る服のことは、もう城中で噂になっておるのだ。そこで、今日の大臣会議にこの服を着ていこうと思う。お前達、服を私に着せてはくれぬか」
二人の男は王様に服を着せた。ズボンや上着、マントまで一式を。すぐに、王様は下着だけになってしまった。王様は鏡を見て、
「うむ。素晴らしい着心地だ。何も着ていないように軽い。お前達、よくやった。報酬はそこにあるから、持って帰るといい」
男達は喜んで報酬を手にし、城門の方に帰っていきました。
王様はそれを見送った後、お付きの者を呼び、大臣会議を開くこと等を城内に伝えるよう指示した。大臣会議の準備はすぐに整った。
城の大きな会議室に、十人の大臣が勢揃いしていた。農業大臣や漁業大臣、文化大臣に財政大臣。中にはこの城で欠かせない、服飾大臣もいた。
大臣が皆揃ったところで、王様がやってきた。堂々とした立ち居振る舞いだが、服は下着以外何も着ていない。大臣達がどよめく中、王様が口を開く。
「今朝、遂に隣国の機織り師による衣装が完成した。驚くのも無理はない、この服は実に素晴らしい模様だ。馬鹿にはこの服が見えないというのだから、残念でならん」
王様はとても嬉しそうだった。大臣達は暫く顔を見合わせていたが、まず学問大臣が、
「素晴らしいお召し物です、王様!今までこのような素晴らしい模様は見たことがありません!」
続いて文化大臣が、
「いや、いや、見事なものですな。光り輝くように見えるほどです」
そして服飾大臣が、
「腕の良い機織り師です。城のお抱えにされてはいかがでしょうか」
と、王様の服を褒め称えた。他の大臣はというと、何も言わずに俯いて、ばつが悪そうにしている。王様は会議室を見渡してから、ゆっくりと頷いた。
「成程、成程。この服を着れば、馬鹿な者が分かってしまうようだな。では、無能な者は大臣の座から下ろしてしまうとしよう」
服を褒めていた大臣達は、王様の提案に賛成した。黙っていた他の大臣達が、静かに席を立とうとした時、
「おおっと!」
王様が突然大声を上げた。そしてお付きの者を呼ぶと、大臣達に聞こえるような声で、
「なんということだ。部屋に服を忘れてしまった。羽のように軽い服ゆえ、気付かなかったのだ。急いで、衣裳部屋から適当な服を持ってきてくれ」
と指示した。王様は、急いでお付きの者が持ってきた別の服を着て、唖然とする大臣に向かって高らかに言い放つ。
「どうやら、この中には確かに馬鹿がいたらしい。虚栄心の強い馬鹿者が。近衛兵よ、今すぐ学問大臣、文化大臣、服飾大臣を牢に入れろ。暫く頭を冷やしてもらっている間に、新しい大臣を決めようではないか」
先程まで元気に王様を褒め称えていた大臣達が、急に静かになった。近衛兵に連れられて、会議室の外に連れ出される。反省室代わりに入れられた牢屋の中には、城門で衛兵に捕らえられた二人の男が、先客として座っていた。服は、着ていなかった。
それからまた数日後、謁見の間に一人の男が呼び出された。城下街で、服屋を営んでいる男だった。王様が口を開く。
「お前は、元服飾大臣から、余が着ないようになった服を買い取っていた。間違いないな」
男は顔色を変え、王様にひれ伏した。
「確かに、その通りでございます。申し訳ございません。どうかお許しを」
それを見て、王様は笑い出した。
「よい、よい。余は今まで、古い服は大臣が捨ててしまっているのだと思っておったのだ。あの素晴らしい服が街に出回るのであれば、これほど嬉しいことはない」
そして、王様は男に取引を持ち掛ける。
「どうだ。今日も、よかったら服を買い取ってはくれまいか。何着か、もう要らなくなった服があるのだ」
男は王様の寛大さに感謝して、自分の店へ帰っていった。
二人の男が、城下街を歩いていた。一人は頭の半分が白髪で半分が禿げている老人。もう一人は、鍛冶屋でもやっていそうな逞しい青年だった。
二人は隣国でかなり悪名高い詐欺師である。これまで幾度となく人を騙し続け、指名手配犯となっていた。そこで彼らは、この国にまでやってきて、自分達の仕事をしようとしていた。
城の近くに一軒の服屋があった。高価で質の高い服を販売している。詐欺師達は迷いなくその店に足を踏み入れた。服屋の店主は、みすぼらしい見た目の男達を見て、いらっしゃいませと言った。詐欺師達は店員に話しかけた。
「この店に、今まで街の誰も見たことがないような服は置いていませんか」
それを聞いた店主はにっこりと笑い、
「ございます。最近何着か入荷したものなのですが、他にはない逸品ですよ」
と言って奥に引っ込み、やがて戻ってきた。
手には、何も持っていなかった。
コメント
こういう短編すこ
(こういう短編小説しか読めない顔)