そこには、誰も予想しない結末が待っていた。
8月24日、13時1分。4041校の頂点を決める試合が始まる。
エースの堂林率いる強豪、優勝候補の愛知代表中京大学付属中京高校と、選球眼が良く全試合2桁安打という「つなぐ野球」で勝ち進み県勢初となる決勝進出を果たした、新潟代表日本文理高校。
試合は1回から動く。エース堂林の2ランホームランで後攻の中京大中京が2点を先制する。つなぐ野球の日本文理も負けじと3回表に同点とする。
しかしここから中京大中京がその強さを見せる。6回2アウト満塁から一気に6点を勝ち越すと、続く7回にも2点を加える。日本文理も7、8回に1点ずつ加えるが、10対4と大きく離される。
そして9回表、日本文理最後の攻撃。6点を追いかける状況で、ライトに下がっていた先発・堂林がマウンドに戻ってくる。さすがはエース、先頭打者の若林と続く中村を簡単に打ち取り、9回2アウト。あとアウト一つで全国制覇。チームの顔も緩む。
日本文理のエース伊藤は、いつも通りチームのやる気を上げるためにピッチング練習を始めた。
打順は1番に戻り、ここまで4打席無安打の切手。コントロールの良い投球で2ボール2ストライク。あと一球。
しかしここから、日本文理持ち前の選球眼が光る。際どい球を2球連続で見極めてフォアボール。2アウト1塁と望みをつなぐ。
続く2番は、この日ホームランを含む3安打の高橋。さすがは強豪エース堂林、ここも3球で2ストライクと追い込む。またもあと一球。しかしここで少し力んだか、少し球が外れ捕手がボールをそらす。この間にランナーが走り、2アウト2塁。
ここで気合いを入れ直したか、低めの球をしっかり投げる堂林。しかし高橋が粘りを見せ、フルカウントからの9球目。甘く入ったボールを左中間へ打ち返す。これで5点差、2アウト2塁。
中京大中京が守りのタイムを取る。
この日無安打の武石。またも堂林が3球で追い込む。あと一球。それでも際どい球は決して振らない武石。
2-2からの7球目。狙っていた。ライトの横へ打ち抜く。6点目のホームイン。更に武石は攻めの走塁で3塁へ。
ピッチング練習をしていた伊藤は打席への準備をするためベンチへ戻る。
2アウト3塁、2ベースを放っている4番吉田。しかし2球目を打ち上げてしまう。ファールゾーンにボールが飛ぶ。観客からの声援が歓声に変わる。キャッチャーとサードがボールを追う。
ボールはサードのはるか後方に落ちた。歓声がどよめきに変わる。ここまで来てアウト1つが取れない。動揺を隠せないエース堂林は、次の球で吉田にデッドボールを与えてしまう。中京大中京はたまらず2番手投手・森本を再びマウンドへ送る。
2アウト1塁3塁。4点差。ホームランを打たれても、アウト1つとれば優勝できる。
5番、高橋。森本は落ち着いた投球で2ボール2ストライク。またもや追い込む。しかし高橋が際どい球を全てファールにし、フルカウントからの8球目はボール。フォアボールで2アウト満塁。打席にはここまで投げぬいた日本文理のエース、伊藤。
アウトをとればその場で試合終了。しかし同時にホームランが出れば同点の大チャンス。森本も焦り始めたのか、2球連続でボールを投げてしまう。2ボール0ストライクからの3球目。伊藤は甘く入った球を見逃さなかった。打球は三遊間を抜け、3塁ランナーが生還、さらに2塁ランナーも好走を見せホームイン。日本文理の夏はまだ終わらない。2点差。
ここで代打石塚。初球の甘いチェンジアップを完璧に打ち返し、1点差。更にレフトがもたついている間に伊藤は3塁へ。
2アウトランナー無しから5点、さらに1塁3塁。長打が出れば逆転。そして打順が一巡し、この回先頭打者だった若林。
2球目。
レフト方向への鋭い完璧な打球。
ボールは三塁手が掲げたグラブの中に収まった。
22分にも渡る長い9回表。15時31分、試合終了。中京大中京が43年ぶり、7度目の優勝を果たした。
試合後のインタビューでは、勝者の堂林が涙を流し、敗者の伊藤が笑顔を見せた。
日本文理はこの試合でも14安打、甲子園全試合で2桁安打を記録。その強さを見せた。
2009年の全国高校野球選手権大会は、壮絶な決勝戦で幕を閉じた。
甲子園にはドラマがある。高校野球は、やめられない。