この投稿は「カオスの坩堝 Advent Calendar 2017」の3日目の記事です。
はじめましての方ははじめまして。お久し振りですの方はお久し振りです。ただし19年以上前に会った記憶があるという方は恐らく人違いでしょう。
STARTです。投稿日の22:58にこいつの存在を思い出しました。日にちが変わる前に投稿できるよう飛ばしていくので付いてきてください。
さて、タイトルからお分かりの通り、今回は寿司屋の話です。鮟鱇が既にSUSHIについての考察をしてしまいましたから、もう寿司はいいよとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、まあご心配は無用です。
私は、鮟鱇が想像もできなかった「回っていない回る寿司」の話をするのですから。
つまるところ、店構えはしっかりと寿司屋であり、回転レーンが存在せず、かつ回転寿司のようなクオリティが得られるという店です。そんなところがあるのか?あるのです。
ここに。
ここは大阪の某所に店を構える、そうですね、「すし川(仮)」としましょうか。名前が見えてる?やかましい、ここはすし川なんだ。
さて、見てお分かりの通り、このすし川は回転寿司の店ではありません。外観は正に寿司屋という趣で、中も後でお見せしますが、ショーケースやカウンターといった「回らない寿司」の形になっています。しかし見てくださいよこの価格。たこ100円、まぐろ100円、いか100円。下の方に見切れていますが、うに、とろ、いくら等は350円です。一貫あたりのお値段とは言え、やはりこれは回転寿司プライス。ここに「回る回らない寿司」の実例が誕生したわけです。
そんなリーズナブルで地元民御用達の感のあるすし川ですが、大阪住みでもない私がどうしてここを訪れようと思ったのか、そのお話をしなくてはいけませんね。順番が逆になってしまいましたが、こちらの書籍をご紹介させてください。
(2006,新書館 ウンポコ・エッセイ・スペシャル)https://www.shinshokan.co.jp/comic/4-403-22049-5/
これ、ご存知?
2006年に出た本らしく、ウンポコってのはなんとまあ雑誌の名前らしいのですがそんなことはどうでもいいのです。私はこの本に先日ブックオフで出会い、電撃的に購入しました。実際面白そうでしょう、この本。今は人に貸していますが、また言ってくれたら貸しますからね。
それで、ですよ。私はこの本を読了したすぐ後に、先述の「すし川」へ訪れることを決めたのです。これがどういう意味を持つかはお分かりでしょう。私はすし川が、生きているかどうか大変に怪しいと睨んでいたのです。
その理由はいくつかあります。ここで今一度、先程の写真をご覧いただきたいのですが。
提灯をご覧ください。ビニール袋で覆われていますね。いえ、袋自体はどうということもないのです。最近では特に多いですが、雨などによる破損を防ぐため、提灯をビニール袋で覆うお店は多いですからね。私が気になったのは、写真では分かりにくいその細部です。写真を撮っておくべきだったかもしれません。
提灯が、ボロボロなのです。
そうは見えないですか。よくご覧ください。「し」の字など特に判りやすいのですが、字の周りが黒っぽいですよね。汚れているのでしょうか。いいえ。これはその一帯がほぼ骨だけになり、中が見えているために黒っぽいのです。とにかくこいつはボロボロ、というかスカスカでした。下を持ってちょっと力をかけると破れ落ちてしまいそうです。この提灯は、雨避けなどではなく、自重を支えるために袋に包まれているのかもしれません。
第二の理由として、看板が挙げられます。一貫100円という安さはともかく、その奥の看板を見ていただきたいのです。実は下見の時、ここの文字は殆ど擦れて読めなかったのです。先程紹介した本の中に、「メニューに読めない部分がある店は危険(今までそれを直さずに済んでいたということだから)」とあったので、私は一層警戒心を強めたというわけです。
しかし私はここで一つ、貴方に謝罪をせねばなりません。写真を見て判る通り、下見から本番までの間に、看板は読めるように修復されてしまっていたのです。
マジックで。
わくわくしてきましたか?僕もこれを見てわくわくしました。
食べログやぐるなびに記事が無く、Google Mapsでかろうじて表示される寿司屋、「すし川」。さあ、お店に足を運んでみましょう。
その日、すし川が見えてきた時のことからお話します。道の向こうで、すし川に誰かが入っていくのが見えました。やはりここは地元の人が訪れるようなお店なのかと、私は若干落胆します。というか、その日は祝日だったのですが、何故すし川はこんな日まで営業しているのでしょう。実に気合の入った姿勢と言わざるを得ません。
そして私は例の看板を目撃し、若干の安堵と共に店の扉を開けるわけです。木の扉は若干汚れていますが、見た目は綺麗な木の色をしていますから、そう古いものでもないのでしょう。さあ、扉を引きます。
ゴギギギギギギギー
もうたまりませんね。金属をこすり合わせたような音がします。メリメリ、というのの極まったやつですね。さあ店の中を見てみますと、妙です。大変暗いのです。そして一番手前の席に、先程店に入っていった方が座っています。店主はどこでしょうか。いえ、とぼけてはいけませんね。貴方も既にお分かりのことでしょう。座っていた男性が、ダウンジャケットを着た老人が振り向いて口を開きます。
「お客さんですか?」
「はい」
……最早何も言いません。店主が立ち上がって電気を点けました。私はそれを見た瞬間再び得も言われぬ高揚感に襲われます。私は店主が奥に引っ込んだ隙に嬉々として写真を撮りました(後に「店内で写真を撮ること」に関しては許可を得ています)。それがこちらです。
空。そう、ここにはショーケースに並べるような新鮮なネタはないのです。そしてカウンターの上には生活感溢れる物の数々。ここには写っていませんが、カウンター横の棚には「馬の埴輪」「沖縄の唐獅子の置物」「その上に置かれた『北海道』の立て札」という充実っぷり。正に100点満点と言えるでしょう。棚の上の数々は写真を撮っておくべきだったと今になって後悔しています。沖縄の置物を北海道と言い張る勇気! 最高です。
さあ、寿司屋に行って、その店の実力を見るためにはやはり「特上」を頼むのが一番。ということで、8貫2000円の特上にぎりを注文しました。覚悟の上です。
お茶をいただいて(店主がダウンジャケットから着替えたりするのを)待っていると、扉が開き、また一人年配の男性の方が入ってきました。今度こそお客さんです。安心するやら残念やらでそちらの方を見ますと。
「ああ、お客さんですか。いらっしゃいませ」
すし川、決して私を裏切りません。
後から来た店員の方と、特上が来るまで世間話をさせられ、もとい、していますと(相撲や皇族のご結婚の話など、時事ネタでした)いよいよ寿司がやってきました。笹の葉が置かれ、一貫ずつ置かれていきます。店の方に許可をいただいて、それを写真に撮りました。
何これ。
まず目につくのは海老と鰻。笹に乗せるのを途中で諦めるくらいなら最初から皿にのせていただきたい。7貫目から直置きを始めた時は吹き出すかと思いました。まあ、あと見た目からして危なげなのはうにですね。シャリの高度が低く海苔が余っている上に、乗っているうには……何かな、雲丹ソース的な?とにかく原型は留めていません。イカなんかを見ると、シャリの形も大変なことになってますね。ではそのイカから食べてみましょう。少量の醤油を付けて、一口で、ぐにっ。
「ぐにっ」?
はい、ぐにっ、です。なんとこのイカ、ネタとシャリの量の比が7:3、いいえ、8:2程になっているのです。これは海老を除く全ての握りにおいてそうで、マグロもはまちも恐ろしく分厚いのです。ネタが楽しめるお得感なんてありませんよ。あるのは噛み切る辛さです。醤油が足りない。
ネタはまあ、冷凍であろうというおおよその見立てがありますから食べてもさして驚きはしないのですが、シャリはもう。食べた瞬間感じる冷たさと芯の残る食感。知ってる。お前もさっきまで冷凍されてたんだろ。
次にうにですね。こちらは食べた瞬間真っ先にきゅうりが主張してきました。写真を見てください、分厚いでしょう。一事が万事これだというのに、うにの量だけは少ないのですから救いようがありません。きゅうりの主張について真っ先に、と書きましたが、実際のところは最初から最後まで、うにの風味がきゅうりに勝ることはありませんでした。かっぱ巻きのうにソースがけ。
あとはそうですねえ。いくらは粒が潰れかけでしたし、ひらめは後に残る臭みがありましたし、マグロやはまちはブロック状でしたね。その中で良心的存在だったのは海老とガリ、そして鰻ですね。海老に関しては絶望的なシャリ以外は安定感があり、スーパーとかに売っている海老のにぎりにある程度近いものでした。鰻ですが、これはネタが多いという特徴が功を奏しています。鰻というのは一度加熱処理がされていて安心ですし、鰻である時点で一定以上に美味しいので外れません。シャリが少なくて良かった。「にぎりとしてではなく鰻として食べる」。これが私のベストアンサーです。
ガリですか?消毒用ですよ。
この記事の最初で私はすし川のことを「回っていない回る寿司」と呼びましたが、そんなレベルではありません。回転寿司であのウニを食べた日には、誰もが機械の故障を確信するでしょう。食べながらちらりとメニューを見てみますと、ほぼ全てのにぎりに一つ一つ「上」と「下」があります。これはにぎりの特上ですから、当然全て「上」なのでしょう。ということはお前、まだ下があるのか。恐らく、むしろ「上」という概念が年月と共に失われてしまったのだと思いますが、どちらにしても中々震えの止まらない話です。
8貫を食べ切った私は、最後に店主へ2000円を支払いました。その際、店員のご老人に「美味しかったですか?」と問われ、「はい、美味しかったです」などと答えてしまったのですが、ひょっとするとあの店員の方は何かを察していたのかもしれません。祝日の昼時に男子大学生が一人で特上を頼みに来る、その意味を。
家に帰って母親に一連の話を面白おかしく聴かせたところ、「バイトで稼いだものとは言え、お金をそんな風に使われるのは悲しい」というあまりにも破壊力の高い正論が飛んできました。ちょっと反省しましたが、私としてはあの店主に、アトラクションの費用として正当な対価を支払ったつもりです。ただし二度と行きません。
余談ですが、あの店を去る時、来た時と同じ扉を開けようとしたら「反対ですよ」と言われました。つまり私は入店時、立て付けが悪い方を開けたということです。反対側を引くとすんなりと開きました。何ということのない話なのですが、どうにも私には、すし川の扉が私の入店を引き止め、退店を促そうとしたように感じてしまいます。
そんな扉はあの路地で、今日も貴方の入店を止めようと、今か今かと待ち構えているのでしょう。
この記事は「カオスの坩堝 Advent Calendar 2017」の3日目の記事でした。STARTが担当しました。4日目はタクシャカさん担当の予定です。
コメント
あの本を読ませてもらったから言えるけれど、健康を害すレベルでなくて本当に良かった。
ひらめは「あっ、ちょっとヤバいかな?」と思う味だったけれど、特に問題は無かったよ。ヤバそうという先入観が強いのでどうしても体に悪いように考えてしまうが、まあ私の胃腸は異物に強く油に弱いので。
地雷は踏むためにあるんですね
優秀な地雷処理ロボットなので……