初めまして、AOLと申します。アオルと読みます。諸般の事情によりSNSアカウント等とのリンクは行なっておりません。ご了承ください。私がどういう人物であるかはおいおい話させていただくとして、まずは挨拶がわりに小説を投稿させていただきたいと思います。


僕には彼女がいた。一言で表すなら…白だ。真っ白で、綺麗な人だ。

本当に、綺麗な人だった。

1年前、2017年の元旦、僕は大学近くの下宿にいた。たった5日の冬休みにわざわざど田舎の実家に帰る気は無かったからだ。お袋は朝からガミガミ電話越しに何か言っていたが、知ったことではない。僕は1人でのんびりと正月を過ごすのだ。

そんな僕の思いは、元旦の14時くらいに無念にも消し去られることとなった。

コンコン

ドアのノック音が聞こえる。僕の知り合いは大半が帰省してる。誰か残ってたっけ、まあいいや、一緒に酒でも飲むか。そう思ってドアを開けてみると、そこには真っ白のコートに身を包んだ小柄な女の人が立っていた。

…自慢じゃないが僕には家を訪ねてくるような女の人はいない。なんなら普段話すような女の人もいない。仕方ないだろ。僕は工学部なんだから。

だからもちろんこの女の人も知り合いではない。見たこともない。

「…どちら様ですか?」

「初めまして。舞野美桜です」

「…は、始めまして。」

綺麗な声…じゃなくて、誰だこの人。舞野?聞いたことない。いや初めましてって言ってるんだから知ってるはずがないのか。なぜここに来た?

「入ってもいいですか?」

「あ、はいどうぞ」

んんんん!?!?僕は一体何を言ってるんだぁぁぁぁぁ!?はいどうぞじゃない!テンパりすぎて訳のわからない回答をしてしまった!!…ただし僕にはここから彼女を追い出すような術はもっていない。ということでおとなしく中に入れることにした。昨日大掃除したところだから部屋も片付いてるし。うん。

とりあえず彼女にはコタツに入ってもらって、お茶を出す。

「えっと、何か御用でしょうか。」

「1年間、私をここに置いてください」

「いやちょっと待って、どういうこと?」

「1年だけ、1年だけでいいんです。私をここに置いてほしいんです。お願いします。家事は全て私が行いますから」

結局そのあとどれだけ話しても彼女はこの家に置いてほしいの一点張りで、拉致が開くことはなかった。もう出て言ってくれないかと言おうと思ったけど、外は珍しく雪が降っている。僕はどうしようもなくなって、とにかく今日だけは泊まっていいと彼女に告げた。

しょっちゅう友達が泊まりにくるから布団は2組ある。そこは問題ない。問題があるとすれば僕の精神の方だろう。もちろん寝られるはずがなかった。

次の日、僕はなんとか彼女を追い出した。ついでに僕も買い物と初詣に出かける。3時間ほどして部屋に帰ってくると、彼女はまだ部屋の前にいた。

「1年間、ここに置いてください」

結局、僕が折れることになった。彼女が家の前に立ってると、僕が通報されそうになるからだ。通報されて親に連絡でも行ったらたまったもんじゃない。

その日から、彼女は全ての家事をやってくれるようになった。もちろん僕も気がついたことはするけれど、その前に大体彼女が終わらせてしまっていた。

…流石に洗濯だけは自分でするようにしていたけれど。

1週間が経って、ようやく彼女との生活に慣れてまともに会話ができるようになった頃、彼女は生活費だといって封筒に入ったお金を渡してきた。どこからお金が出てきたんだと思ったけれど、素直に受け取っておくことにした。それからも彼女は定期的にお金を渡してきた。

彼女は大学生ではないようで、基本的に家にいるようだった。時々、どこかにふらっと出かけては、夕方ごろに帰ってくる、といったこともあった。

僕はいつの間にか彼女のことが好きになっていた。あんなに可愛くて、綺麗で、素敵な人が近くにいるんだ。ちょっとした話をしても、笑顔で聞いてくれる。何か少しでも手伝うと、ありがとうと言ってくれる。好きになるなという方が無理だろう。

2月になって、僕の春休みが始まった頃から、彼女と出かけるようになった。デートと呼んでもいいのだろうか。わからないけれど、ネットで必死に調べて彼女を連れていった。

彼女は自分のことをほとんど話してくれなかった。どこで生まれたのか、どこに住んでいたのか、僕に出会うまで何をしていたのか、そしてなぜ僕の家に来たのか…でも、どこに行っても物珍しそうに周りを眺めている彼女を見る限り、この辺りに住んでいたわけではないようだった。ますます謎は深まるばかりであった。

4月、花見に行って、彼女に告白した。彼女はとても嬉しそうにOKしてくれた。

こうして僕には彼女ができた。友人にはお前にはもったいないくらいの人だなと言われたし、僕もそう思った。相変わらず彼女は一緒に住んでいて、僕は彼女の方が好きで、彼女も僕のことを好いていてくれた。幸せな毎日だった。

夏には2泊3日で旅行にも出かけた。たくさん写真を撮った。それから、いろんなものを買った。誕生日でもなんでもなかったけれど、お揃いのネックレスもプレゼントした。ちなみに誕生日は1月1日らしい。珍しい。

お盆は、彼女と一緒に僕の実家に帰った。

「美桜、僕はお盆には実家に帰るから、美桜も帰ったら?」

「私には実家はありません」

「え…」

「親もいません」

なんとなく、彼女に詳しいことを聞くことはできなかった。ここに1人置いていくのはどうなのかと思って、彼女を連れて帰ることにした。

彼女を連れて帰ったことなんて初めてだし、両親は大喜びしていた。親父には、彼女に捨てられないようにしろよ、と言われた。彼女は彼女でお袋と意気投合したようで、楽しそうに2人で料理していた。

後期が始まると、彼女は時々僕の授業が終わるくらいの時間に大学に来るようになった。さすがに実験室まで迎えに来てくれることはなかったけれど…まぁあんな男だらけのむさ苦しい空間は招待するようなものでもないか、と思っていた。

日が経つに連れて彼女といる時間が長くなっていく。というよりも、彼女の方が僕からなかなか離れなくなっていた。僕は全く悪い気はしないし、むしろとても嬉しかった。

11月に入った頃から、彼女が家でぐったりとしていることが増えた。熱があるわけでも、咳をしているわけでもなく、ただぐったりとしていた。動きもぎこちないことが多くなった。僕は心配で病院に連れていこうとしたが、彼女は頑として行かなかった。

12月になった。だんだんとぐったりしている日が増える彼女が僕は不安で、家にこもりがちになった。彼女は大学に行きなよと言っていたが、僕は全く授業に出る気分になれなかった。もともと白かった彼女の肌は一段と白くなっていく。病院にはいこうとしない彼女を、僕はずっと見ていることしかできなかった。そっともたれかかってくる彼女は、とても軽かった。

12月25日、クリスマス。体調がいいとは言えない彼女を連れ回すのは良くないだろうと思い、家でささやかなパーティをした。料理は僕が作った。

彼女にはマフラーをあげた。少しでも彼女の体調が良くなってほしかったからだ。ここのところずっと家にいた彼女はプレゼントが用意できていなかったようで、とても申し訳なさそうにしていた。

「全く気にしてないから。早く良くなってね。そしてまたデートに行こう」

僕はそう言った。

12月30日。もうすぐ2017年が終わる。ということは、彼女と出会って1年が経つ。

「美桜が来てからもう1年か、はやいね」

「ねぇ、私が初めてここに来た時に言ったこと、覚えてる?」

「覚えてるよ。1年間ここに置いてください、っていきなり言ってきたんだもん。びっくりしたよ」

「うん」

「…美桜、ずっとここにいていいからな。好きだよ」

「…ありがとう」

そう言った彼女の顔は、何故か寂しそうに見えた。

その日の夜ごはんは、久しぶりの彼女の手料理だった。

12月31日、朝起きると、彼女は家にいなかった。コンビニでも行ったのかと思っていたけれど、30分経っても、1時間経っても、彼女は帰ってこなかった。

僕は1日かけて彼女を探した。近くのスーパー、大学、駅、繁華街…でもどこにも彼女はいなかった。

彼女は携帯電話を持っていなかった。そして僕は彼女の連絡先を知らなかった。だって必要がなかったから。必要になることがなかったから。僕は彼女と連絡を取ることができなかった。

年が明けても、学年が変わっても、彼女が帰ってくることはなかった。

そうして彼女は、消えてしまった。

半年後、クローゼットを漁っていると、白い封筒が落ちて来た。

「きっとこれを見る頃には私はもう貴方の元にはいないでしょう。貴方にはたくさん伝えたいことがあります。でも私にはもう時間がありません。まずは、私が何者なのかを、貴方にお話ししたいと思います。

私の正式な名称は”E-017-C1BD56″、感情と、コミュニケーション能力をAIによって実装しロボットに搭載するためのテスト機です。貴方の元には、試験のために1年の期限付きで送られました。

この1年という期限は、ただの実験の期限ではありません。私には理解できませんでしたが、私の体は新しく開発された物質で構成されているようです。そしてそれは1年の年月が過ぎると、白い砂となり朽ち果ててしまうのだそうです。もしかしたらもっと長く持つかもしれない、とも言われていたけれど、ここ最近の自分の調子を見て、そんな可能性はないだろうと思いました。私が貴方の元を去ったのはそのためです。私が消えてしまう姿を貴方に見せたくはなかった。身勝手でごめんなさい。

初期の私は、プログラムで組まれた通りに動作していました。貴方のことも、いくつかの条件をクリアした人の中からランダムで選ばれた人だとしか思っていませんでした。そして私は、日が経つにつれて貴方に恋愛感情を抱くようになりました。

貴方と過ごす毎日はとても楽しくて幸せなものでした。プログラムを停止し、AIによって自らの行動を決めるようになってからも、それは変わりませんでした。貴方のことが大切だと思っていまいたし、貴方が私を好いてくれていることがとても嬉しかったです。

けれど私は貴方に好きだと伝えることをずっとためらっていました。なぜなら私の感情は作られたものだからです。貴方が私に抱いている感情とは違う、偽りのものだからです。それに私には1年という期限がありました。私と貴方がどれほど惹かれあっても、一生を添い遂げることはできません。だから私は、貴方に好きだと告げることができませんでした。

これが最後だから、AIかもしれないけれどこれが私の本当の気持ちだから、貴方に伝えます。貴方と一緒に過ごすことができて嬉しかった。貴方に好きになってもらえて嬉しかった。本当にありがとう。私も貴方のことが好きでした。

舞野 美桜」


いかがでしたか。

初投稿ということで短編にしようかと思っていたのですが、思ったよりもスケールの大きい話となってしまいました。

ちなみに、残念ながら当方恋愛経験は0ですので、これは完全なる想像の世界でございます。…書いていて悲しくなってくるのは何故なんでしょう。

これからも想像と妄想全開で恋愛小説(とたまに真面目なお話)を投稿していこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

コメント

  1. nininga より:

    私の勝手なイメージですが
    fateの桜で脳内再生されていました

    後、大したことではないですが
    「埒が明かない」