こんばんは、STARTです。今日はいつも通り短編小説でも投稿しようかと思っていたのですが、ふと「私の小説はどう受け止められているのか?」と気になってしまいました。そこで今回は、先日の「御伽噺改変大会」にて投稿した『恩と仇』に関して、書きながら考えていたこと、表現したかったこと等を記してみようかと思います。それは面白いのかと言われると、読む人に依ると言わざるを得ませんが、「ああ、こんなことを考えていたのか」と、制作裏話、あるいはそこまで飛躍するような内容にはしていないつもりですが「ウミガメのスープ」でも読むような気分で読んでいただければと思います。
さて、『恩と仇』は日本昔話『鶴の恩返し』を基に私が作った短編小説です。全体の構造として、ある男の妻がぽっと出の若い女に居場所を奪われていく流れを独白の形で綴っているというものなのですが、その中に様々な「匂わせ」を仕込んであります。本来ならばそれを作者自ら語ってしまうのは、興醒め、マナー違反の類に当たるかと思うのですが、まあ今回は、『恩と仇』という小説を消耗品として「使う」つもりでお話します。
・「娘」は何者か?
作中では、家にやって来た娘は「雪女」であるとされ、実際途中からは「雪女」で呼称が統一されていました。その部分はこちら。
私は娘に対して、ある疑惑を抱いていたのです。それは、彼女の美しさが、本当に「この世のものではない」のではないかということです。つまり、娘は雪女なのではないかと、そう思ったのです。おかしな妄想でしょうか。いいえ、いいえ。そうではないのです。まず、あの娘は着のみ着のままやって来たと先程お話しましたね。そこからしておかしいのです。少なくとも山一つは離れているであろう彼女の故郷からここまで辿り着いたにしては、何も持っていなさ過ぎるのです。食べ物や水を持ち歩いていた様子はありませんでしたし、服なんてぼろぼろでした。真冬にあれでは一日と持たないでしょう。あの娘が何であるにしろ、少なくとも村から追い出されて旅をしてきたという話は真っ赤な嘘です。そして、そんな嘘をつく必要がある人間がどこにいるというのでしょう。
しかし、これはあくまで妻の個人的推理です。娘の来訪時の状況に不自然なものがあったのは事実としても、そこから「雪女」と決めつけるのは発想がやや飛躍し過ぎです。この小説において、そこをどう考えるかは読者に委ねており、読み方に依ってストーリーが以下のように変化します。
①娘は本当に雪女、或いはそれに準じた妖怪(悪役)である
妻の推理が正しかったとする説。この場合、娘は家の主人を誑かし、最終的に家を乗っ取ろうとしていたことになります(呪殺云々はともかく)。妻は悪役たる雪女に最終的に勝つ(詳細は後述)主人公として描かれます。まあ恐らく正当な読み方。
②娘は善良な人間として恩返しをしていた
妻が完全に勘違いしている説。いきなり現れ夫の好感を勝ち取った娘を「雪女」と思い込んだ妻は、娘の有能さも妖術の類と決めつけ、最終的には……(後述)、というお話。人の思い込みの怖さとか、正義は人それぞれだよね的な展開に仕上がっています。
③娘は鶴である
このお話は鶴の恩返しのオマージュ等ではなく、鶴の恩返しそのものなんですよという説。まあ正直鶴だろうが善良な一般市民だろうがお話の筋は②と変わらないので、超人的な機織り技術の整合性を取りたいならばこれで考えれば良いでしょう。
・妻は娘に何をしたのか?
早速ですがこちらをご覧ください。
でもね。でも、まだ終わってはいなかったのですよ。雪女は油断したのです。私がもう、雪女にとって何の邪魔にもならないと、思い込んでしまったのです。
あの人から遠ざけるだなんて、今まで回りくどいことをやってきたものですよね。それでは結果は、あの人を失うという結果は変えられなかったのでしょう。最初からこうするべきでした。
春、夏、秋、そしてまた冬。この一年、本当に色々なことがありましたね。あの人はずっと雪女を大切にしていて、私は雪女にしてやられ続けだったわけですが、最後にはこうして勝てたのですから、何を恨むこともありませんとも。
これは妻が娘に「勝てた」ことを宣言している部分です。さて、この「勝つ」とは何でしょうか。これも文中では言明しておりませんので、様々な解釈が考えられます。
①妻が娘を追い出した
一番マイルド(?)な解釈です。雪女を何らかの理由で家から追放し、妻の中ではハッピーエンドな展開です。この場合、主人をどう説得したのかがいまいち不透明です。まあ、なんか告げ口したんでしょう。
②妻が娘を監禁した
追放より思い処置というと、やはり監禁でしょうか。「あの子なら急に行ってしまいましたよ、家のお金を盗んで」とか何とか言いつつ、女を納屋や、見つからない山奥にでも監禁。妻はそれをちゃんと世話するんですかね。そのまま放置して③という可能性もあります。
③妻が娘を殺した
一番分かりやすい対処法です。火曜サスペンス感がありますが、こういう可能性もあるのではないでしょうか。ヤンデレですね。
・妻は誰に語りかけているのか?
この小説は独白の形で綴られている、と先程述べましたが、終盤では誰かに語りかけるような口調に変化しています。
昔話、というほど昔のことでもなかったかもしれませんが、楽しんでいただけましたか。本当はもっとお話していたかったのですけれど。
よってこれは日記の類ではありません。では、誰に語りかけているのか。正直これはあまりしっかりと解釈を増やせたとは思っていないのですが、考えられる説を挙げていきます。
①物語と関係のない第三者に語っている
妻が第三者に事のあらましを語り聞かせているという構図。この場合普通に考えて娘は殺さずに追放したのだろうと思われます。ただ、一連の流れを「昔話」としている辺り、何か話の当事者に語って聞かせているような感も強いので、違和感が無いと言えば嘘になります。親戚や、娘の来訪を知っている近所の人ならば有り得るかもしれませんね。
②娘に語っている
こう思った方が多いのではないかと勝手に予想しています。娘を目の前にして、敢えて三人称たる「雪女」を使うことで、他人事のように昔話を語りつつ、雪女である(と妻は思っている)娘を非難しているという構図です。
いいえ、いいえ。私は何も恨んでおりませんし、呪うこともありません。ただ、私はやるべきことをするだけなのです。夫が妖怪に捕まりそうだというのに、助けない妻がおりましょうか。これまであの人と共に歩んだ幾年もの御恩を、今こそ返す時なのです。そんな機会を与えてくれたこの一年に、私は感謝すらしているのですよ。
ここは、「貴女に勝てたのだから恨みは最早無い。私が夫に恩を返す機会をくれた貴女に感謝すらしている」という意味になります。まあ娘は感謝された後、最悪殺されるのですけれど。
③夫に語っている
最も考え辛い、しかし考えつくと最も不穏な説です。この道にも辿り着けるように文章を調整したかったのですが、難しいですね。この場合、妻が娘を倒したとはっきり夫に言ってしまっているわけですから、相当に開き直っているということになります。ヤンデレですね。「貴方が気に入っている娘を追い出しました(殺したかも)、これが恩返しです」と言われて、夫はどう思うのでしょうか。この説の派生で、娘に心を許した夫の方を殺すという説も一瞬考えましたが、流石にそれを恩返しとは言わないでしょう、多分。解釈としても飛躍が過ぎるように思えたので、今回は載せませんでした。もし自力でそこに辿り着いた方がいらっしゃれば教えてください。
・「妻」は何者なのか?
予め言っておきますが、これはおまけです。可能性として想定して書きましたが、ここまで考えつく人はかなり想像力豊かな方なのではないでしょうか。しかし、個人的に好きな分岐というのもあり、追加で載せておきます。語り手である「妻」とは、実際のところ何者なのか。
①妻は人間である
特に説明不要ですね。妻は妻、それ以上でもそれ以下でもありません。
②妻は雪女である
序盤の方で、妻が娘を雪女と解釈するのは論理が飛躍していると言いました。では、この飛躍が、「妻自身が雪女であり、娘を同族と看破した」という理由だったならどうでしょう。娘のすることが雪女の手口なのだとすれば、雪女である妻にもすぐ判ります。妻の推理は妄想ではなく、確信に基づいた危機感というわけです。こうなると、妻は夫に語りかけながら「恩返し」という名の呪殺を敢行しようとしている可能性が出てきます。邪魔者もいなくなったし改めて、という展開です。ただ、この説には「何故妻は娘に妖術で対抗しなかったのか」という瑕疵があります。反論としては、「齢をとったことで力が弱まった」という想定ができるかもしれません。
確かに、奥の部屋には古い機織り機がありました。私がかつて使っていたものです。今はもう織るような体力もなく、長い間放っておいていたものですが、糸は残っていましたので、それを雪女に貸しました。
この記述が裏付けとなるでしょう。
③妻は鶴である
今回の分岐の中で最も考えづらいものですが、個人的には気に入っています。なるべくこの説を匂わせたかったのですがやはり難しいですね。妻は元々主人に助けられた鶴であるという説です。「この小説は、『鶴の恩返し』のオマージュではなく、鶴と男が結ばれた想定のifストーリーなのでは?」とまで考えた疑り深い(褒め言葉)方の辿り着く境地です。この説は全く手掛かり無しの発想でも、私の後付けの考えでもありません。取っ掛かりとしてはここを想定していました。
夫が妖怪に捕まりそうだというのに、助けない妻がおりましょうか。これまであの人と共に歩んだ幾年もの御恩を、今こそ返す時なのです。
この文、「捕まりそう」という表現をしています。つまり、かつて猟師に捕まりそうになっていた自分を逃がした主人を、今度は雪女の手から逃がしてあげようという恩返しです。やや無理があるのは否定しませんが、②で紹介したようにかつて機織りをしていたこともありますので、有り得ない説ではないと考えています。ちなみにこの場合、妻は娘の機織りに関して、鶴である自分より上手いので、いよいよ娘が妖怪だと確信したという筋書きが考えられます。
以上です。無理があるように思える説もありますが、なるべく全てが「考え得る」ように作ろうと心懸けました。ちなみに作り手としては、小説に「正解」の道は設けていません。全ての可能性が重なり合って、読者の中でこの小説は完成します。言うなれば、読みながら考えた道が正解というわけです。このような造りを目指した理由として、「はっきりしないという不穏さ」を作りたかったという思いがあります。妻が本当に正義なのか。この後、或いはこの直前に娘はどうなったのか。色々と想像して、もやもやしていただければ、或いは、他の道が見つからずとも、何か怪しいと、しこりが残るような読後感を味わっていただければなと思って作りました。ちなみに久生十蘭の影響を受けています。念を押して記しておきますが、多くの道を見つけたことが「優れている」だとか、考察が出来なければ「不正解」というわけではないと思っています。私としては、好きに読んでいただいて、その中で解釈がぶれていけば面白いなと思っていた程度です。作者当ての時に感想を募集した理由の一つがこれです(感想には常に飢えているのですけれど)。よろしければ、『恩と仇』を読んでどう解釈したかコメント欄等に記していただけると、今後の創作活動のためにも非常に有難いです。
私は小説を書く際、どこかに何かパズルめいた部分を設けたいと思って毎回試行錯誤しています。このような「複数の解釈」が出る形の小説は、今までにも幾つか別の場所に発表しています。これからは特に種明かしのようなことはしないと思いますが(DM等で訊かれたら答えるかもしれませんが、初めに述べた通り人によっては興を削がれるだけかもしれません)、私の小説を読む時、「もしかして何かあるかも」と思いながら読むと、少し発見があったり、無かったりするでしょう。今回言いたかったことは大体これくらいです。雑なまとめを読んでいただき、有難うございました。
コメント
僕は
妻が雪女を殺し、雪女(死体)に対して語りかけてるもんやと思って読んでました
死体説も十分有りやね。殺しながら発言も考えられる。
私は
妻が雪女に殺されるぐらいならと思って夫(場合によっては雪女も)を殺して、その死体に(生きてるなら雪女にも監禁しつつ)語りかけてると思ってましたね
出たな、主人に語りかけマン!色々に分岐してくれるというのは嬉しいなあ