暑くない、30年前。今日と違って。
そのころ、あれ、冬か。いいや。
反抗、いや犯行か。親、いや保護者、あそこまで話が合わなかったの、今もない
学校行ってたらしいけど、どうも僕、学校を誤解してたらしい。あ、小学校ね
どういう意味?
皆、適当にあしらう。あしらえなかった。従う、抗う楽しさから抜けられない。当然だよ。装置であることを学校は隠している、いやわざわざ表にしていないだけ。仕事としての、契約としての正しさなんだって。だから、一回でも反抗したら追い出される。当然だった
ほら、たとえば入学試験、それって、もうね、機械的で、正しい。それを知らなかった
小学校に入学試験?
ああ、そうか、小学校って今言わないのか。えーと、ああ、6歳くらいのころに受ける試験
なぜ知らなかったのだろうって思うと苦しいよね
は、はあ?
だからね、チラッ、サッって
逃げた。捨て去って。覚悟はあった。誰からも見えぬように。思い起こさないように。起こされないように
ふむふむ?
今から考えると、みんな、そんなものでしょ、じ、つ、は。そう思ってる。もう30年前のことだから、確かめようないけど
ひとつだけ聞いていい?
ほんとうに?
撤退の美学なんてない。それはあくまで透けた泥。最後までやり切ったもののほうが評価されるべき。それはそう。
あれ、そういえば、食堂であんな人バイトしてたか、言われてみたらいた。出来よかったくせに、なんなんかね。あれ。
どうしてるんだろうね。しらないね。まあ、そんな人、たまにいるし。気にしてたらやってらんない。
面接、もうちょっとうまくできんのかね。そういう、なんつうか面倒な奴を避けるようにできんのかね。
あれ、そもそも、いたのかな。彼って。
ほんとうに?
ひと月ほど前だったか、あそこ、なんていうんだっけ
彼を見かけた。見かけないはずだった彼を。
それがだね、装置っていうのは、奇妙な効果を生んでた。装置っていうのは、差異を生んでた。区別を生んでた
ギロッ、ってにらんできた。背けてきた。あっ、って
僕もそむけた。逃げた。僕はだって、詳しいしね
ほんとうだったのか、彼、生きてたの?
あれ、ゴキブリ!あ、逃げてった。気持ち悪いね。やっぱり。
生きてた、生きてた、けど、別物。いや、もう思い出したくもない
それで、えっとそれで、逃げた。裏を回り、雑踏の中に。相変わらず、早いんだから、彼は、って諦められた
まあ、僕は裏切り者、そういうこと。実感するね。装置の効果
心に話しかける。時効だよ。届いてない
終わりなき忘却への道、灼熱とともに溶かされゆく過去。そもそも、記憶なんてあいまい。真っ白なわだかまり
あれどこだったけ、あそこ、あの寮。壊されようとしてたあの寮
今でも聞こえるんだ、彼の末路がね
フィクションです。
ほんとうに?
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こわい