麻薬

自分自身のエゴがひたすらに嫌いだった。憤怒、嫉妬、それらの醜い感情が全て詰まった球のなかに、まるで永久に閉じ込められているみたいだった。男は日常を捨て、故郷を捨て、何もかもを捨て、世界の果てに旅立つことに決めた。

道中で、とある老人に出会った。その老人は、若いころはもっと豊かで、交通の便も良い都市部に住んでいたらしいが、とある事件によりそこを追放され、今ではこの寂れた辺境に住んでいるらしい。老人は男に、一袋の粉剤を手渡した。「おぬしの気持ちはよく分かる。この薬を飲めば、おぬしは楽になれる。ただし、それを使ってはもう元の居場所には戻れない」おそらくその袋の中身は麻薬の類であろう、だが世間を、居場所を捨てた男にとって、それは大した問題ではなかった。男はその薬を一気に飲みほした。

はじめはあまり効かなかった。だが、日数が経つにつれ、男の見える景色は変わり始めた。腐った大地は肥沃な土壌に、荒れ果てた家は立派なお屋敷に、何もない村は地上の楽園に、そして空虚な人々は、その一人一人が確固たる意志と思いやりをもつ、美しい人々に変わっていった。もちろん、男はこれが幻想であることを理解していたが、それでもこの幻想に少しでも長く、深く染まっていたいと考えるようになった。日々働き、その金で絶えず麻薬を買った。ただ買うだけでは飽き足らず、徐々に自ら麻薬取引場に出向いたりもした。

ここで彼は、ひとつの思いを抱くようになる。こんな薬を作っているのは一体どんな人なのだろう。今まで存在すらしていなかった他人への興味が、その男の中からむくむくと湧き上がってくる。男は裏取引場に毎日張り込み、その製作者が訪れる機会をひたすらに待った。

そしてその時は訪れた。薬と引き換えに金を取ろうとするその瞬間、物陰から男はその人にぽつりと話しかけた。「答えてくれ。あなたはどんな人なんだ。どうしてこの薬を作ろうと思った」その人は顔も見せず、こう答えた。「この紙に記された時間と場所に、俺はいる」

男は悩んだ。果たしてそこに行くべきか、行くべきでないか。

(適宜単語を置き換えてお楽しみください)

えぇ…(ドン引き

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