なぜ学校に行かなきゃいけないんだ。西日にさされながらひとり通学路を歩き呟く。嫌で嫌で仕方ない。授業もつまらない。あのバカ共を相手に2次方程式の解の公式を唱えさせて何になるというのだ。何より行った所で奴らの餌になるだけだ。周りの大人も誰も助けてくれない。教師は見てみぬふり、学校側もおそらく認めないだろう。父母は毎日のようにどこかへ旅行。ここ数ヶ月は顔を合わせていない。家にいるのは雇われた家事手伝いくらいなもので、それも僕が学校に行っている間に仕事を済ませてしまうから、顔を見たのは挨拶に来た時くらいだ。
下を向きながら歩いていると変なものが見えた。鳥が倒れている。そこまで鳥に詳しくない僕でもあれがツルであることくらいはわかった。そんな御伽噺じゃあるまいし、と思いながらも、その息絶えそうな目を見て見過ごすわけには行かない。近くに獣医がいた事を思い出しそこに連れて行った。看護師さんたちに甚く褒められたが、お世辞でも何でもなく当然のことをしたまでだと思った。あのツルを見過ごしたらきっと一生後悔してしまうかもしれない、一生罪悪感に苛まれるやもしれないと、そう感じたからだ。
家につき、ふと気づいた。自分も死ねば奴らを罪悪感で一生悩ませられるだろうかと。もとより大して面白いこともない生活なのだから死んでも変わらなかろうと。家は2階建ての屋上つきだった。ほとんど家を空けてるにも関わらずこんな豪華なものを建てる両親の気持ちは全然分からなかったが、このとき始めて感謝したかもしれない。屋上へ上がろうと思った時にチャイムが聞こえた。まさかと思いながらドアを開けるといかにもという感じの女性が立っていた。
「いやいやいやいや」驚きと笑いと怖さとが混じった声が出てしまう。「まさか今日の?」「はい」やはりか。家に機織りはないがどうするんだろうかなどと考え込んでいると、鶴はこういった。
「私のような未熟者はまだ恩返しもまともに出来ませんがどうかお礼だけでも言わせていただきたいと思い訪ねました。必ずやあなたは立派なお人になります。苦しいことも悲しいことも沢山あるとは思いますが、私めを助けてくださったという事実は一生忘れません。どうか沢山の人があなたの事を誇らしく思われるような、そんなお人になってくださることをお祈りしております。では。」
明日も学校に行こう。