小説一覧

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晩雷

 氷川哲郎の様子がおかしい、という報せが入ったのは、面会時間が終わる間際の夕暮れ時だった。  看護師と連れ立って病室の引き戸を開ける。中では私を呼び出した張本人、哲郎の息子が待ち構えていた。 「哲郎さんに何かあったとお聞きしましたが」 「ええ、その」見た目に四十は過ぎでいるであろう哲郎の息子は、落ち着かない様子で薄くなり始めた頭を擦った。 「 仕事帰りに会いに来たんです...

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影の男

 町内放送の夕焼けこやけが耳に届いたことで、初めて僕は今が夕方であることに気付いた。 一体どれほどの時間、僕はここで呆けていたのか。目の前の世界が赤く変わっていったことにすら意識が向いてなかったのだから相当のものだ。茫然自失、とは今の僕のことを言うのだろう。  ここへ来た時は砂場で遊んでいた数人の子供たちも、いつの間にか居なくなっていた。彼らが夕焼けこやけよりも前にこの児童公...

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ブージャム

目の前のベンチには一人の女性が座っている。イギリスのストーンヘンジを模したモニュメントが中心にある広い公園で、普段は子供が大勢遊んでいるのだが、今日は天気も不安定であたりに人気はなかった。少し前まで、この女性のボーイフレンドらしき人物がベンチに一緒に座っていたが、今はここにはいない。 私は今、さっき目撃した驚くべき現象をこの女性に伝えたいと思っている。といっても私はもうかなりの回数それを見...

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焚べる

(2018年12月22日0時改稿) 焚き火に投げ込まれた枯れ枝は、炎に当てられた途端に呆気なく燃えた。乾き切っていない枝があったのか、火は視界をぼやけさせる程の白煙を吐き続けている。顔を焦がす熱を感じて、わたしは椅子を少しだけ引いた。 「薪、もう無くなっちゃったけど」 「良いんだよ。これ以上燃やしたら、寝る前に消えなくなるから」 軍手を外してテーブル...

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名無しのNemoです。いまカリフォルニアは12月14日12:38ですね。 本編とは全く関係ありません。        穴に落ちていた。 12月1日 天気:穴  ぼくは見上げてからようやくそのことに気がついた。随分と高くから音がするとは思っていたが。穴の中ではそれもうまく聞き取れない。いま思うとここは真っ暗闇だ。自らの手の輪郭さえも掴みきれないほどに。いつ落ちたのかは定かではない。...

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憧憬

暫くすると、ロードバイクは上り坂へと差し掛かった。車二台がようやくすれ違えるかというような幅の、舗装も不完全な道を走るその先、東南東の空には先程上ったばかりの満月が輝いていた。 「嗚呼、帰ってきたのだな」 僕は小声でそう呟いた。産まれてから中学卒業までの十数年間を過ごした故郷、実に七年ぶりの里帰りになる。がたがたになった坂道も、その横に建つ瓦屋根の家並みも、あの頃と何一つと言っ...

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8月3と4分の3日

「危ないわハリー! ヒッポグリフから離れて!」 ハーマイオニー・グレンジャーがそう叫んだので、慌ててポッターはヒッポグリフから離れた。ヒッポグリフは突然甲高く鳴き声を上げたかと思うと、今までポッターが居た辺りに向かってむちゃくちゃに蹴りを入れた。 「おっどろいた。ハグリッド、ヒッポグリフの様子が変だよ」 ロン・ウィーズリーがそう言ったのに、グレンジャーが答える。 「見て、目...

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13

暑くない、30年前。今日と違って。 そのころ、あれ、冬か。いいや。 反抗、いや犯行か。親、いや保護者、あそこまで話が合わなかったの、今もない 学校行ってたらしいけど、どうも僕、学校を誤解してたらしい。あ、小学校ね どういう意味? 皆、適当にあしらう。あしらえなかった。従う、抗う楽しさから抜けられない。当然だよ。装置であることを学校は隠している、いやわざわざ表にしていないだけ。...

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サイレント・カーテン

sudo systemctl stop―― サーバーにそのコマンドを打ち終えてから、僕はふぅとため息をついた。息を吐き出してから、今打ったコマンドに、自分が何の感慨も持っていないことを理解した。それは多少の感慨を僕に与えた。 自分が持っていたサービスの一つが終わる。そう考えれば、もう少し感情が湧いてきても良いようなものであった。たとえそれが、コマンド一つで成し得ることにせよ。 ふ...

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せるふいんとろだくしょん

さざ波のような静かなざわめきの中、あなたは無表情で机の前に座っていた。 落ち着いていて、冷静で、物静かに。周りのことは一切視界にないような風でただ座っていた。 今日は入学の日。あなたは新入生。周りにはぎこちない挨拶を交わす人。緊張しきって書類を読むことしかできない人。それとは逆にフレンドリーに会話を楽しむ人。人。人。人。 波に乗るせよ飲まれるにせよ各々に新しい環境に対する何かしらの反応を見せ...