小説一覧

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憧憬

暫くすると、ロードバイクは上り坂へと差し掛かった。車二台がようやくすれ違えるかというような幅の、舗装も不完全な道を走るその先、東南東の空には先程上ったばかりの満月が輝いていた。 「嗚呼、帰ってきたのだな」 僕は小声でそう呟いた。産まれてから中学卒業までの十数年間を過ごした故郷、実に七年ぶりの里帰りになる。がたがたになった坂道も、その横に建つ瓦屋根の家並みも、あの頃と何一つと言っ...

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8月3と4分の3日

「危ないわハリー! ヒッポグリフから離れて!」 ハーマイオニー・グレンジャーがそう叫んだので、慌ててポッターはヒッポグリフから離れた。ヒッポグリフは突然甲高く鳴き声を上げたかと思うと、今までポッターが居た辺りに向かってむちゃくちゃに蹴りを入れた。 「おっどろいた。ハグリッド、ヒッポグリフの様子が変だよ」 ロン・ウィーズリーがそう言ったのに、グレンジャーが答える。 「見て、目...

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13

暑くない、30年前。今日と違って。 そのころ、あれ、冬か。いいや。 反抗、いや犯行か。親、いや保護者、あそこまで話が合わなかったの、今もない 学校行ってたらしいけど、どうも僕、学校を誤解してたらしい。あ、小学校ね どういう意味? 皆、適当にあしらう。あしらえなかった。従う、抗う楽しさから抜けられない。当然だよ。装置であることを学校は隠している、いやわざわざ表にしていないだけ。...

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サイレント・カーテン

sudo systemctl stop―― サーバーにそのコマンドを打ち終えてから、僕はふぅとため息をついた。息を吐き出してから、今打ったコマンドに、自分が何の感慨も持っていないことを理解した。それは多少の感慨を僕に与えた。 自分が持っていたサービスの一つが終わる。そう考えれば、もう少し感情が湧いてきても良いようなものであった。たとえそれが、コマンド一つで成し得ることにせよ。 ふ...

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せるふいんとろだくしょん

さざ波のような静かなざわめきの中、あなたは無表情で机の前に座っていた。 落ち着いていて、冷静で、物静かに。周りのことは一切視界にないような風でただ座っていた。 今日は入学の日。あなたは新入生。周りにはぎこちない挨拶を交わす人。緊張しきって書類を読むことしかできない人。それとは逆にフレンドリーに会話を楽しむ人。人。人。人。 波に乗るせよ飲まれるにせよ各々に新しい環境に対する何かしらの反応を見せ...

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ノゾミ

私の視界に最初に映ったのは、真っ白な天井だった。 「―うん。今度こそ、成功だ。」 そんな声を聞きながら、私は上体をゆっくりと起こし、辺りを見回した。 そこは、真っ白な部屋だった。天井も白、壁も真っ白。私の右側には小さな窓があり、そこに取り付けられたカーテンもやはり白かった。左を向くと、白衣を着た男が一人、白いコンピューターの前に座っていた。年の頃三十前後と思われるその男は、白衣に...

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朧月

今宵も頭上では綺麗な満月がキラキラ。 でも実際の月はなにも綺麗なところはない。 砂とクレーターしかないこの小さな天体では人類は満足できなかった。 200年前ー人類がこの星に植民し始めた。 100年前ー人類は月から撤退した。"我々"を残して。 100年前にあった崩落事故でエアロック内の酸素が漏れ、あるコミュニティが全滅した。 地球ではその事故の原因や責任をめぐって大騒ぎになったらしい...

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ねぼけ桜

初投稿です。短編小説で、実際のところSSくらいの長さになっています。拙作ですがどうか最後までお付き合いください。 ☆ 「あっ、すみません」 演奏開始10分前。コンサートホールの分厚い扉の向こうから顔を覗かせたのは、部活の先輩である白石沙羅さんだった。 「あれ、圭介君も来てたんだ」 背はちっこいし、顔もちっこい。薄いショールに身を包んだ白石さんは、いつも...

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恩と仇

あの娘が来たのは寒い冬の夜でした。 「ごめんください。どなたか、食べ物を分けてはいただけませんか」 飢饉の口減らしのため、住んでいた村から殆ど追い出されるように旅に出たという娘を、あの人はすぐに家の中に通しました。あの人というのは、ええ、そうです。私の夫のことです。 心優しいあの人のことです。野垂れ死にそうな娘をそのまま放っておく筈もありませんでした。娘にご飯を食べさせている間に、あの人...

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鶴の恩返し

 おじいさんが野道を歩いていると、若い蛇口が一匹罠にかかっているのを見つけました。 「助けて〜助けて〜」  蛇口は、とても苦しそうな声で助けを呼んでいます。  親切なおじいさんはすぐに駆け寄ると、蛇口を捕らえているトラバサミの解除に取りかかりました。野生の蛇口は国の天然記念物です。それを罠にかけるなんて……。おじいさんは人間の残酷なまでに深い欲望に対して悲しみを覚えました。 「可哀想な蛇口...